公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

平成26年度 後期(秋季)有機合成化学講習会 開催報告

  平成26年度 後期(秋季)有機合成化学講習会 テーマ:有機合成化学の最前線-使いたい技術・使わせたい技術

平成26年度 後期(秋季)有機合成化学講習会 開催報告
テーマ 有機合成化学の最前線『使いたい技術・使わせたい技術』
主催 主催 有機合成化学協会/共催 日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会
日時 [終了]平成26年11月20日(木)~21日(金)
※多数の方々にご参加いただき誠にありがとうございました。
会場 (社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール[東京都渋谷区渋谷2-12-15/TEL.03-3406-3326]地図
交通 JR 渋谷駅東口より高樹町方面へ高速道に沿って徒歩約8分
→詳細は 長井記念館Webサイトよりご確認ください
参加申込締切 定員120名になり次第(座席指定制・先着順)〈参加者は懇親会無料〉
  » →詳細プログラムへ

開催報告

    有機合成化学講習会は、先生方の最新の研究結果だけではなく、研究の背景やそれに至った経緯なども説明することで、最先端の技術及び有機合成の基礎を強固にするという目的を持った、学会とは一味違う会であります。
    さて、本年度後期(秋季)講習会は、平成26年11月20(木)及び21(金)に、例年と同様の会場(日本薬学会長井記念館長井記念ホール)で開催されました。
    今回の講習会のテーマは、有機合成化学の最前線「使いたい技術・使わせたい技術」として、有機合成の基礎や応用のみならず、それらを支える分析技術で御活躍されている11名の先生方をお招きしました。また、先生方の講演を聴きに本会に参加して下さりました人数は119人であり、その内訳は企業109人、大学・官公庁3人、学生7人でありました。多くの質問をしてくれました参加者の方々と、その質問に丁寧に答えて下さいました先生方のお蔭で本講習会が非常に盛り上がりましたことに感謝致します。


第1日目

  • 開会の挨拶後、最初の講師であります野崎京子先生(東大院工)は、リグニンの資源化を目的に「新規9族錯体を用いた水素化/脱水素化」を語られました。炭化水素への変換が比較的容易なアルコール性OHやORから始まり、最終的には難敵Ar-OHやAr-ORをArHに変換出来ることを述べられました。朝一番の講演から質疑も多く、順調な滑り出しで本講習会が始まりました。

  • 続いて、山口健太郎先生(徳島文理大香川薬)が「構造解析の最新鋭技術」について述べられました。最初はCSI-MSの原理や実際の測定結果(分子の会合状態)など比較的基礎的な話があり、続いて現在非常に注目を集めている結晶スポンジを分析側から熱く語ってくれました。

  • ランチョンセミナー1

    (昼食をとりながらスポンサー企業のショートプレゼンテーション)

    初日のランチョンセミナーは2件、島津製作所からCrude 2 Pure(迅速な精製と乾燥粉末化が可能な機械)の簡便さとその仕組みを詳しく説明されました。

    日本電子からは最新NMR Zeta機(最先端のパルスシーケンス制御を高速・高精度に実行する点やSNの向上と測定時間の短縮が可能)の最新装備を丁寧に説明されました。

  • 午後からは、石川勇人先生(熊本大院自然科学)が「全合成におけるバイオインスパイアード反応と不斉有機触媒反応の利用」を演題に講義を行いました。バイオインスパイアード反応とは生物から着想を得た反応であり、今回はビンブラスチンやジケトピペラジンアルカロイド類合成の紹介がありました。それらの合成の中にはセレンディピティーがあり、その経緯などが語られました。

  • 次に、本講習会最初の企業からの講師であります加来智弘先生(武田薬品工業(株))が「前立腺癌治療を指向した17,20-リアーゼ阻害薬のデザインと合成」について語られました。デノボデザインから臨床開発化合物への美しい道が一段一段理路整然と示されました。このため、会場からは発想の経緯に関して多くの質問がありました。

  • 本日最後の嶋田一夫先生(東大院薬)は、「NMRを用いた創薬標的タンパク質の機能解明」について語られました。一枚の情報量が多く、また非常に多くのスライド(90枚、時間内に全てを説明できましたことに先生も驚かれました)にもかかわらず参加者から質問があり、参加してくれました方々のレベルの高さを感じました。

  • パネルディスカッション

    今回の講習会はいつもとは異なり、福山 透先生(名大院創薬科学)、茶谷直人先生(阪大院工)、野崎京子先生(東大院工)や赤尾淳史先生(エーザイ㈱)によるパネルディスカッションを設けました。参加者が化学人生について常日頃思うことを先生に質問し、茶谷先生や福山先生達は含蓄のある回答をしながら笑いで会場を賑やかにし、野崎先生は実直な回答で、赤尾先生は企業の人らしい回答で、化学に対する道を示してくれました。質問は合計6件もあり、予定していた時間はあっという間に過ぎました。


  • <ミキサー&アフターディスカッション>(講師の先生方を交えて)

    この後、懇親会が催されました。まず、先生方の紹介(2日目の全先生も含む)を行い、乾杯を行った後、飲食しながら参加者は先生方に熱心に質問をしていました。今回、懇親会の時間をいつもより長くしましたが、それでも討議が終わらない程活発でありましたことは嬉しい限りであります。


第2日目

  • 第2日目のご講演は福山 透先生(名大院創薬科学)からスタートしました。「これは全合成に役立つと思った触媒反応」という演題で、これまで先生が達成された全合成の中で有効活用された触媒反応を、主に「酵素反応」「金属触媒」「有機触媒」の3カテゴリーに分けて、独特のユーモアをふんだんに盛り込みつつ、ご丁寧に解説いただきました。今回の先生のご講演は「役に立った」触媒反応例のオムニバスと見ることも出来ますが、特異な天然物骨格を「使える」触媒反応を駆使して効率的に組み立てる逆合成解析例、と見ることもできる示唆に富んだ福山先生ならではのご講演だったと感じております。

  • 2演題目は山口潤一郎先生(名大院理)から、「実用化合成研究を指向したC-Hカップリング反応の開発」と題してご講演いただきました。近年進展が目覚ましい芳香環、ヘテロ環のC-Hアリール化反応に関する話題の中から、特に直截変換が難しい位置でのC-Hアリール化研究を中心に、基礎、反応開発、その活用法と幅広い内容をご紹介いただきました。大学・企業問わず多くの研究者から注目の高い研究内容というだけでなく、先生の芸術的な実施・応用例に(しかも未発表ネタも披露していただき)刺激を受けた参加者が多かったのではないかと推測しております。

  • ランチョンセミナー2

    (昼食をとりながらスポンサー企業のショートプレゼンテーション)

    ランチョンセミナーでは、シグマアルドリッチジャパンから最近市販化された数々の触媒、試薬などをご紹介いただきました。有益な情報が多く、お弁当も美味しくいただけて、満足気な参加者が多かったように思います。

  • 午後の最初の講演は、赤尾淳史先生(エーザイ(株))から「プロセス理解に向けた質量分析計による反応解析-基礎から測定・解析のコツまで-」と題し、PAT(Process Analytical Technology)としての質量分析の利用法に関してご講演いただきました。反応中間体をリアルタイムで質量分析によって検出し、目的プロセスの効率化に繋げる例を丁寧に解説いただきました。従来苦手とされていた中性・マイナー成分の質量分析による検出に関して、その方法と有効性、将来性などについても触れていただき、プロセス理解が品質保証に如何に重要かを認識できる良いきっかけになったのではないかと感じています。

  • 午後の2演題目は、池内豊先生(第一三共(株))から「糖尿病治療薬CS-1036のハイブリットプロセス開発」という演題目どおり、有機合成と醗酵を組み合わせた医薬品生産に関してご紹介いただきました。講演の前半は、開発初期の取り組みであった有機合成法の改良についてお話いただきました。後半では、さらなる原価低減を指向した新たな合成ルートの開拓をご紹介いただきました。原料生産菌の改良から、目的物の分離・精製、合成中間体への誘導手法を解説いただき、プロセス開発の力量を、盛り沢山のアイデアと緻密な解析を交えてお示しいただきました。

  • ブレイクをはさんでの講演は、細川誠二郎先生(早大院先進理工)による「全合成を短くする」でした。「最長直線工程10工程程度で全合成を達成する」というシンプルかつ大胆な目標の下、step economyを如何に稼ぐかというこだわりの研究内容についてご講演いただきました。後半に遠隔不斉誘導型反応の新展開とそれを利用する全合成研究についての最近のご成果についてもお示しいただきました。1つの反応を注意深く観察・精査し、起きている有機化学の理解に繋げる姿勢の重要性をまじえながら、幅広い全合成研究例について独特のテンポでご紹介いただきました。参加者もその熱意ある研究内容に、引き込まれていたように感じました。

  • 本講習会の最後は、茶谷直人先生(阪大院工)から「不活性な結合を有機化学に」と題してご講演いただきました。その演題の通り、不活性結合を触媒的に活性化するにはどのような化学プロセスを経る必要があるかという基礎的かつ重要なポイントにご講演の焦点を絞り、先生方が最近開発された反応とそのメカニズムについて丁寧にご解説いただきました。これまであまり合成に使われなかった不活性結合の活性化手法を発見し、それを深く理解することで、新たな合成プロセスの創出に繋がるという信念を強く感じました。未来のために地道な努力を積み重ねる研究姿勢の重要性も伝わってくる、若手研究者には大変刺激的なご講演だったと思います。

有機合成化学は様々な研究分野との境界を持っているので、「有機化学プラスα」で研究者としての視野が広がります。でもなかなか自分1人ではその一歩が踏み出せないこともあるかもしれません。本講習会は、通常の学会・講演会とは異なり、大学で講義を聞いているような錯覚すら覚えるユニークな会で、合成化学者の合成スキル・知識の育成だけでなく、視野の拡大にも「使える」会だと思います。また、本会に参加する方の中にはもしかすると同じような悩み・目標を持っている人もいるかもしれませんし、また全く別の視点を持っている人もいるかもしれません。普段、大学・会社で狭く・短くなった視野を広く・長くする場として、ぜひ利用されてみてはいかがでしょうか? 次回の有機合成講習会は平成27年6月15日~16日の両日で開催予定です。多くの方々の参加をお待ちしております。

<2014年度事業委員会委員>
((株)三菱化学科学技術研究センター 佐藤直正)(理化学研究所 平井 剛)

ページ更新日
2015年1月28日