公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

平成27年度 前期(春季)有機合成化学講習会 開催報告

    

テーマ

『有機合成方法論の新潮流-使いたい!注目の反応と技術』

主催

主催 有機合成化学協会
共催 日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会

日時

[終了]平成27年6月15日(月)~16日(火)

1日目10:00~20:15 /2日目 10:00~16:10

会場

(公社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール
[東京都渋谷区渋谷2-12-15/TEL.03-3406-3326]

地図

プログラム

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開催報告

    有機合成化学講習会は、通常の学会とは一味違うものです。最先端で活躍する一流の講師をお招きし、ご自身の研究についてその領域全般の歴史的•理論的背景を解説頂き、その上で最新の成果から利用上のノウハウまでを教えて頂きます。最先端の知識•技術を共有し日本の有機合成化学の基盤を強固にしていくことを目的にしています。
     企業の研究者の方々が95%以上参加することが本講習会の大きな特長であり、どの参加者もあらかじめ送付されるテキストを読み込み、大切な情報を聞き逃しまいと「身をのり出して」講習に聞き入り、メモを取ります。そして多くの質問が出され、講習後また1日目終了後のミキサーでも講師の先生方は質問対応で「引っ張りだこ」です。この講習会のミキサーの正式名称は「ミキサー&アフターディスカッション」です。講習中には質問できなかった参加者もお酒が少し入ったところで講師の先生方と議論を交わします。とても「コストパフォーマンスのよい会」であると好評です。
     今回の講習会はテーマを「有機合成化学の新潮流“使いたい!注目の反応と技術”」とし,反応開発,プロセス開発の領域で活躍する12名の先生方を産学からお招きしました。参加者は企業から98名、学生2名の合計100名でした。多くの質問をして下さいました参加者の方々と、その質問に丁寧にお答え下さいました先生方のお蔭もちまして、本講習会がたいへん盛り上がりましたことに感謝致します。


第1日目

  • 岩澤伸治先生による開会のご挨拶からスタートしました。 1番目は垣内史敏先生(慶大理工)による「新しい炭素‐炭素結合生成法の開発 ~炭素‐水素結合の遷移金属への酸化的付加を経る官能基化~」でした。炭素‐水素結合の切断様式について基礎的な説明から始まり、アウトプットを意識した研究の進め方や触媒使用時の注意点などを講義していただきました。垣内先生の実験ノートもご紹介いただけたのは驚きでした。

  • 2番目は丸岡啓二先生(京大院理)による「有機触媒化学分野での新たな挑戦:有機ラジカル触媒の創製と活用」でした。超原子価ヨウ素反応剤を用いて温和な条件下で発生させた有機ラジカルを反応に用いた例の紹介と、遷移状態の推定から最適な有機触媒へとチューンアップを行い、触媒サイクルの機構の推定に至るまでの研究の流れを丁寧にご説明いただきました。

  • ランチョンセミナー

    • (昼食をとりながらスポンサー企業のショートプレゼンテーション)

      今回もランチョンセミナーが開催されました。昼食をとりながらスポンサー企業のショートプレゼンテーションを聞いていただくスタイルでのセミナーで、ロックウッドリチウムジャパン㈱からは、バルク供給可能なLi試薬やターボGrignard試薬についての紹介を、日本電子㈱からは、DARTを用いたマススペクトル測定の紹介がそれぞれありました。両社は展示スペースにも出展いただいており、そちらで更に詳しいお話を聞くことができました。

  • 3番目は、関雅彦先生(㈱エーピーアイコーポレーション)による、「C‐Hアリール化反応の新規触媒系の開発と医薬品合成への応用」から講習会を再開しました。反応試薬中の微量不純物が反応に大きく影響することのご紹介及びこの結果を活かし、助触媒について丹念に検討を進めることで非常に選択性、収率の高い触媒系を開発された結果をご紹介いただきました。

  • 4番目は、及川信宏先生(中外製薬㈱)による「ALK(anaplastic lymphoma kinase)選択的阻害剤アレクチニブの創製」でした。細胞活性のデータを生かしながら、化合物の機能についての多面的な理解を深めることでターゲット化合物を絞り込んでいき、目的のALK選択的阻害剤を創製された内容について詳しくご紹介いただきました。

  • 5番目は、石原一彰先生(名大院工)による「酸塩基二重活性化を利用する高機能触媒の設計:アミド縮合反応及び不斉ヘテロ環化反応への展開」でした。数多くの反応例を元に、各種ボロン酸触媒の構造や触媒機構からくる反応性の違いについて、詳細にご講義いただきました。また近日発表されるご予定の、未発表の研究成果もご紹介いただき、まさに最先端の研究をうかがい知ることができました。

  • ブレイクを挟んでの6番目は、菅裕明先生(東大院理)による「Structurally Constrained Ringsがペプチドの可能性を拓く」でした。有機小分子薬剤とタンパク製剤の良い点を併せ持った特殊ペプチドを、簡便かつ数多く検討できるRapidシステムの紹介をしていただきました。最後には既存のインフルエンザ薬とは異なる機構により効果を発揮するインフルエンザ薬の開発や、酵素も組み合わせた創薬開発の紹介もして頂きました。

  • 1日目の最後7番めは、秋山隆彦先生(学習院大理)による「キラルリン酸触媒反応の新展開-水素結合ネットワークによりどこまで立体制御が可能か」でした。リン酸触媒の開発経緯から触媒デザインを行うにあたっての考え方を丁寧にご説明いただき、光学活性なビアリールの合成やリン酸触媒の置換基を選択する際のコツなどをご講義頂きました。


  • <ミキサー&アフターディスカッション>(講師の先生方を交えて)

    第1日目の全ての講習が終了した後、会場横のロビーにて講師の先生方を交えてミキサー&アフターディスカッションが行われました。これは本講習会の恒例企画で、2日間の講師がほぼ全員この場に参加されるため、簡単な食事を取りながらの雰囲気で講師の先生方とのディスカッション、参加者間での情報交換、人脈・ネットワーク作りの時間として大いに盛り上がりました。


第2日目

  • 8番目は,中村正治先生(京大化研)の「鉄触媒C–Nカップリング反応を用いる芳香族アミン類の合成」からスタートしました。鉄はさまざまな原子価をとり、単核に限らず種々の複核錯体を形成し,酸化付加/還元脱離機構、ラジカル機構とまさに多彩な性質をもちます。それらの性質を制御して引き出すことに挑んでおられる中村先生の研究の中から芳香族ハロゲン化物のなどの芳香族求電子剤とアミン類とのC–Nカップリング反応、芳香族C–H結合の直接的アミノ化を中心にお話し頂きました。これまでに用いられてきた銅やパラジウム、他の希少金属触媒を用いた反応についても解説頂き、鉄触媒の特徴と可能性を浮き彫りにして頂きました。最後には「30年後の展望」まで熱く語って頂きました。

  • 9番目は,池本哲哉先生(住友化学㈱)の「有機分子触媒を鍵反応に利用した医薬品プロセス開発」でした。近年脚光を浴びている有機触媒ですが、歴史的には企業のプロセス開発がその発見から発展において重要な役割を果たしてきました。今回住友化学の医薬品中間体合成プロセスの中から有機触媒を用いる反応を鍵反応にした事例をご紹介頂き、バルクスケールでの合成プロセスだからこそ見えてくる有機触媒反応についての新知見そして魅力や課題について解説頂きました。

  • 引き続き第10番目は佐藤元秀先生(日本たばこ産業㈱)の「HIV-1インテグラーゼ阻害剤エルビテグラビルの創製」でした。HIVの3つの標的酵素のうちインテグラーゼを阻害する薬剤の開発には世界の各社が凌ぎを削ってきました。その結果、現在までに三つの薬剤が実用化されましたが、二つは日本企業発でありその一つが日本たばこ産業㈱によるエルビテグラビルです。エルビテグラビルの開発物語をご紹介頂き、日本の製薬企業の創薬力を見せつけたその成果の根底にあった「リードを見極める独自の視点」、「独自の創薬展開」について解説頂きました。

  • 11番目は三浦雅博先生(阪大院工)の「遷移金属触媒による直接的芳香族カップリング反応の開発」でした。脚光を浴びるこの分野を牽引される三浦先生の膨大な成果を研究の経緯をまじえてわかりやすく説明頂きました。配向基およびPd,Rh,Ru,Ir,Ni,Cuの各金属の特徴と条件設定における“目の付けどころ”を解説頂き多くの参加者が「使ってみよう」という気になったことと思います。たくさんの質問が飛び交う講習でした。

  • 最終の12番目の講習は本会前会長である鈴木啓介先生(東工大院理工)の「多段階合成のすすめ:戦術的進化と戦略的変化」でした。多段階合成において一つの新たな戦術(合成反応)が戦略(合成経路)を一変させまた逆に新たな合成戦略を模索する中で新たな戦術が生まれることを,その歴史を振り返って解説されました。さらに,先生のお仕事の中からグリコシドおよびポリフェノール類の合成についてご紹介頂きました。先生自身が大切にしていることと多段階合成の醍醐味が熱く、しかし穏やかに語られました。あらためて有機合成化学の楽しさを感じた講習でした。

<2015年度事業委員会委員>(東京薬大 松本隆司)(㈱ダイセル 前田 幸嗣)

その他,当日の会場の様子

ページ更新日
2015年07月08日