公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

平成28年度 後期(秋季)有機合成化学講習会 開催報告

    平成28年度 後期(秋季)有機合成化学講習会 テーマ:天然物合成ともの創りの新手法開発

テーマ

『天然物合成ともの創りの新手法開発』

主催

主催 有機合成化学協会
共催 日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会

日時

[終了]平成28年11月16日(水)~17日(木)

会場

(公社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール
[東京都渋谷区渋谷2-12-15/TEL.03-3406-3326]

地図

プログラム

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開催報告

  この有機合成化学講習会は、アカデミアの最先端でご活躍の先生は勿論のこと、産業界からも一流の講師をお招きし、最新の研究成果だけでなく、研究の背景や着想に至った経緯、研究を進める上での苦労話や失敗談、実際にその技術を使いこなす上でのコツなどを丁寧に解説いただける貴重な機会として、当協会が主催する学会の中でも非常に特徴のあるものです。受講者の皆様の研究の発展と我が国の有機合成化学の基盤強化・人材育成に寄与することを目的としています。受講者の中心は企業の若手研究者で、受講前にテキストを読み込み、事前に質問を用意してくる方も多く、セッションの中では活発な質疑が行われます。また、1日目のセッション後に開催されるミキサー&イブニングセッションでは、講師の方々と直接議論ができるだけでなく様々な企業からの参加者同士の情報交換や人脈形成の場としても非常に有意義な会として好評をいただいています。
  今回の講習会は、「天然物合成ともの創りの新手法開発」と題して、天然物合成、創薬研究、反応開発、プロセス化学などの多岐に渡る領域でご活躍されておられる12名の先生方を産学からお招きしました。特に今回は、初めての試みとして、大村智先生のノーベル生理学・医学賞受賞などから改めて関心が高まっている天然物合成を1日目にまとめる形でテーマ設定し、様々なアプローチによる多様な天然物合成の話を聞く貴重な機会となりました。また、2日目は近年発展が目覚ましいもの創りのための新技術や新手法の開発をテーマに、非常に興味深い反応開発や工業化プロセス開発などの新しい可能性に溢れた技術に触れる機会となりました。参加者は109名(内学生2名)、非常に活発な質疑が行われ、イブニングセッションを含めて盛会となりました。ご参加いただきました受講者の皆様、大変有意義な講演と丁寧に質問にお答えいただきました先生方に感謝申し上げます。


第1日目

  • 1番目は高尾賢一先生(慶大理工)による「天然物合成を指向した合成法の開発」でした。天然物の全合成研究の意義、その目的意識から導かれる新しい合成反応や合成戦略を感じることができる講演でした。具体的には、環骨格変換メタセシスによるγ-ブテノリド骨格の構築、不斉Claisen転移反応による不斉四級炭素構築、水溶液中でのBarbier型アリル化反応による不斉四級炭素の構築、生合成を模倣したヘテロDiels-Alder反応による多環状骨格の構築有機分子触媒反応を用いたエナンチオ選択的分子内Freidel-Crafts型1,4-付加反応といった多彩な反応を開発し使いこなすエレガントな合成を紹介していただきました。

  • 2番目は横島聡先生(名大院)による「高度縮環構造をもつ天然物の合成研究」でした。レピスチレン、レペニンやカルジオペタリンなどのジテルペンアルカロイドの、構造を見ただけで二の足を踏んでしまいそうな複雑な構造体を効率的に合成している事例を紹介いただきました。全合成は反応の組合せではあるが、「反応の組合せに過ぎない」のではなく、「適切に組み合わせることが連続性を生み、個別の反応では生み出せない新しい価値を生む」というメッセージが大変印象に残る講義でした。


  • 3番目は市川聡先生(北大院薬)による「ヌクレオシド系天然物の全合成」でした。天然物の中でも少しとっつきにくい構造的・化学的特徴を持つ核酸化合物を合成する上で念頭に置いておくべき基礎化学から始まり、カプラザマイシン、ムラマイシンD2、パシダマイシンDなどの複雑な天然物合成まで、丁寧にお話いただきました。保護基の妙、官能基選択性など、有機化学の基礎が詰まったお話で、核酸化学が身近に感じられた講義でした。


  • 4番目は西川俊夫先生(名大院農)による「グアニジン系天然物の合成」でした。グアニジンの塩基性、求核性、高極性といったグアニジンが持つ分子的特徴に関する基礎化学的な話から、その特徴をうまく捉えた導入手法、そしてテトロドトキシンやサキシトキシンといった複雑な海洋性天然物の全合成まで、グアニジンをうまく扱うコツを交えながら詳細に解説していただきました。海洋天然物は特に複雑な構造や特異な官能基を有しており、このような化合物をデザインする自然の凄さとその合成を可能にする有機化学の可能性を感じた講義でした。


  • 5番目は舛屋圭一先生(ペプチドリーム(株))による「低分子医薬品の時代は終わったのか?-合成化学者の未来は?-」でした。大変刺激的なタイトルでしたが、その内容は、現在の抗体医薬の成功を踏まえた上で、それでも中心は低分子医薬品の開発にあるという合成化学者を勇気づける講演でした。ターゲットが枯渇しているわけではない、ファーマコフォアをうまく捉え直して化合物オリエンテッドからターゲットオリエンテッドに思考を変えることで様々な分子設計ができる、化学者は合成だけでなく創薬の様々なステージで活躍する場がある、先生のご経験に根差した熱いメッセージを頂きました。まだまだ合成化学者がやるべきことが沢山あるということを痛感し、非常に勇気をもらった講義でした。


  • 6番目、1日目の最後は菅敏幸先生(静県大薬)による「潜在的対称性に注目した生理活性天然物の全合成」でした。スフィンゴフンギンE、セサミンやヘジオトールA、アクロメリン酸類など、非常に複雑な化合物を如何に効率的に大量合成するかという観点から、分子の対称性に着目したユニークな合成戦略を解説していただきました。産業界では当然ながら効率的かつ大量合成に適した方法が求められており、合成戦略を考える上で大変参考になる講義でした。

  • ランチョンセミナー

    • 今回もランチョンセミナーが開催されました。昼食を取りながらスポンサー企業のショートプレゼンテーションを聞いていただくセミナーで、今回は和光純薬工業(株)より、高性能ホスフィンSilica-SMA、動的光学分割試薬V-MPS4、選択的還元触媒Pd/C(en)含水品といった新しい試薬とその使い方をご紹介いただきました。短い時間でしたが、其々の試薬の使い道を想像しながら大変楽しく、今後に役立つセミナーでした。


  • <ミキサー&イブニングセッション>

    1日目の講演終了後、会場隣のロビーにてミキサー&イブニングセッションが行われました。2日目にご登壇される先生方も含めてすべての講師の先生方にご参加いただき、聴講者も殆どの方が参加され、ロビーが少し手狭に感じられる程でした。軽くお酒を入れながらの和気藹々とした雰囲気で、先生方との講演内容に関するディスカッション、参加者同士の情報交換や人脈形成の時間として大いに盛り上がりました。

第2日目

1日目と異なり、2日目は幅広い領域から講師の先生方をお招きし、各領域における研究背景や着想の経緯など、広範な分野における有機合成化学のお話を教えて頂きました。

  • まずは、侯召民先生(理研)よりスタートいたしました。「希土類触媒を利用した有機合成の新展開」という演題で、希土類の性質のお話より始まり、ハーフサンドイッチ型オレフィン重合触媒開発や、同様の錯体触媒を用い、アニソール系メトキシ基やピリジン窒素原子を配向性置換基として利用するC-H活性化反応、およびその不斉反応化、更にはオレフィン重合とC-H活性化を同一系内で行い、炭化水素骨格が交互に連結した交互共重合体合成に関する研究などを御解説いただきました。後半は、チタンヒドリドクラスター(多核錯体)を用いた、不活性分子である分子状窒素やベンゼンなどの不活性結合切断に関する最新の研究結果に関してもご講義いただきました。

  • 2番目は、小池隆司先生(東工大院)より、「フォトレドックス触媒が拓く新合成戦略:基礎から最近の反応例まで」の演題で、近年急激に研究報告が増えてきている可視光を利用した光反応の御講義をいただきました。4つの一電子酸化還元(SET)プロセスからなるフォトレドックス触媒作用の基本的なお話から、酸化還元剤を過剰に必要としない反応システム開発に関するご自身の着想と研究結果だけでなく、実際に使用されている光照射反応装置の現物も御持参していただいたうえ、他研究グループの報告例に関しても詳細にご説明していただきました。講習後の質疑応答にて、予定時間を大幅に過ぎてしまったことからも、本分野に関する期待値の大きさが覗えました。

  • 昼食後の午後のセッションは、大井貴史先生(名大院工)の「有機イオン触媒の設計と合成化学への応用」でスタートいたしました。これまでに先生は、水素結合を介した「認識」という考え方を取り入れた「構造あるイオン対」という概念より、有機分子触媒の領域にて新しい方法論をご提示されてきました。今回はまずその概念の基本的な説明をしていただいた後、キラルアミノホスホニウム塩とキラルトリアゾリウム塩に関しての、着想から創製と機能創出、詳細な解析と考察を含めた最新の研究成果まで御講義いただきました。また、酸・塩基触媒の限界であるpKaの壁を超えるべく、フォトレドックス触媒との協働戦略と、その詳細な反応系解析もご説明いただきました。

  • 続いては、佐々木博文先生(大塚製薬(株))による「古くて新しい病気『結核』への挑戦 -多剤耐性肺結核治療薬デラマニドの研究-」でした。まずは結核に関する基礎的なお話と、現在大きな社会問題となっている多剤耐性菌出現に関する話題を背景としてご説明いただきました。その後、着想から誘導体展開、評価フィードバックからの活性増強戦略や分子デザイン、候補化合物の活性プロファイル解析、最後に臨床開発から承認に至るまでをご教示いただきました。一般的に創薬研究開発は、日の目を見るものでも数十年を要する長い戦いであり、今回のデラマニド創製に至るまでの研究開発の歴史は、まさにこれぞ創薬探索合成研究というものでありました。


  • 次も企業側の講師の先生をお迎えし、高橋大輔先生(味の素(株))より、「ペプチド・オリゴ核酸の新規な効率的合成法AJIPHASE®の開発と応用」という演題にて、世界的に開発数が増加の一途をたどっている、分子量500~5,000の中分子化合物の革新的合成プロセス開発に関するご講義をいただきました。従来生産法で利用される固体担体を、有機合成的に開発したアンカー化合物に置き換えることで、従来のあらゆる困難や弱点を解決するだけでなく、さらなる高品質化も達成可能とするなど、そのプロセスの有用性に圧倒されました。有機合成化学を基盤としたプロセス開発への着想は、本開催記筆者だけでなく、参加された企業研究者の方々にも大いに参考になったのではないでしょうか。

  • 本講習会最後の講習は、中尾佳亮先生(京大院工)による「協働金属触媒による有機合成反応」でした。遷移金属錯体を用いる触媒反応において、二つの異なった遷移金属触媒が基質を二重活性化する反応形式と、それぞれ異なった基質を活性化する反応形式との2つの場合に関して、基本的な概念から最新の研究に至るまで、開発反応例の紹介ならびにそれぞれの詳細な反応機構解析などを御説明いただきました。不活性結合活性化によるアトムエコノミーに優れた反応開発や、金属反応剤の別途調整を省略可能なステップエコノミーに優れる反応開発など、着眼点から鋭い考察まで、新反応開発における協働金属触媒系の有用性を鮮明に示されるご講義でした。

最後は砂塚副事業委員長による閉会のご挨拶で終了しました。

<2016年度事業委員会委員>(味の素 片山 智)(三井化学 田中陽一)

参加者のみなさまからの感想

このたび、参加者のみなさまより参加後の感想をいただくことができましたので、 ここに掲載いたします。

» 参加者のみなさまからの感想(PDF:196k)

その他,当日の会場の様子

講習会の受講風景

講習会の受講風景

ブレイクでの1コマ

ブレイクでの1コマ

併設展示会場での1コマ

併設展示会場での1コマ

ページ更新日
2016年12月27日