公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

シニア懇話会「第20回ゆうごう会」【開催報告】

シニア懇話会「第20回ゆうごう会」【開催報告】
主催

有機合成化学協会

日時

[終了]平成28年11月04日(金)14:30~18:45頃

場所

化学会館5F会議室[千代田区神田駿河台1-5/TEL.03-3292-7621(有合化事務局)]

交通

JR中央線・総武線「御茶ノ水」駅、御茶ノ水橋口より徒歩5分

参加者

23名

参加費

5,000円

プログラム

話題提供(1)14:30~15:30

「有機合成から食品科学への歩み 〜 β-glucan の今日的意義」
 (元(株)ADEKA/日本総合技術研究所所長)東海林 義和 先生

水溶性食物繊維である大麦β-グルカンは、血中コレステロール低減、血糖値上昇抑制、整腸作用、免疫調整作用など多様な機能性が明らかになってきた。大麦は60年前の1/100程度しか食べられなくなっており、日本人は大麦β-グルカン欠乏症に陥っているのではないかとも考えられる。大麦β-グルカンの機能性と作用機作に関する研究の一端を紹介し大麦β-グルカンの今日的意義について考えたい。

話題提供(2)15:40~16:40

「有機合成徒然草:有機合成化学の歴史と役割を考える」
  (東京工業大学名誉教授/本会名誉会員)中井 武 先生

この「有機合成徒然草」と題する雑談では、次のような雑多なトピックスについて、まさに心のままにそこはかとなく語りたい。化学史小話、2010年ノーベル化学賞のエピソード、“不幸な用語”「化学」、化学の変貌/進化、化学教育の今後、有機合成化学への期待、化学工業の行方。

報告記

  本会シニア会員向けの行事である「ゆうごう会」が平成28年11月4日(金)化学会館5階会議室で開催されました。本会は、東京、大阪あるいは名古屋で年に2回ほど開催され、今回は20回目の節目の会となります。そこで、この度は東海林義和博士(元ADEKA)と中井武先生(東工大・名誉)のお二人の先生をお招きして話題提供をいただきました。

  東海林博士は「有機合成から食品科学への歩み〜β—グルカンの今日的意義」という題目でお話しされました。東海林博士はもともと企業で有機合成化学をもとに様々な分野の研究(省燃費自動車エンジンオイル潤滑剤、高耐熱・絶縁性シリコン樹脂、大腸がん早期発見のための微粒子、食品科学の乳化たんぱく質(カニかまぼこ)、機能性多糖類の開発)に従事され、業績を挙げてこられました。機能性多糖類として特にβ—グルカンに着目され、発酵β—グルカン⇒大麦β—グルカンへと展開されました。この時期に、埼玉大学に転職され、産官学連携で「大麦食品推進コンソーシアム」を組織され、大麦食品の開発と普及に取り組まれてこられました。この運動は現在、農水省「日本の食魅力再発見・活用支援」事業として継続されています。今回はβ—グルカンから機能性食品としての大麦の普及についてお話しされました。最近の研究から、大麦β—グルカンは食後血糖値の上昇抑制、血中コレステロールの低下作用などが認められ、欧米の各国で健康機能性が証明されています。さらに、抗腫瘍活性や免疫活性化を示す結果も出され、大麦β—グルカンは良いことづくめの機能性多糖といえます。大麦は、麦茶、ビール、焼酎、青汁、麦ごはんなどの原料となっていることは知っていましたが、小麦と大きさが違うくらいにしか思っていませんでした。ところが、東海林博士によると、小麦には血糖値の上昇抑制作用などはないそうで、まったく違う穀物ということです。さらに、大麦由来の食品なら何でも良いのかというと、これも間違いだそうです。大麦の種子の主成分はデンプンで、肝心のβ—グルカンは皮に含まれているそうです。皮のような不要物は除かれてしまうので、麦茶、ビールなどをいくら飲んでもβ—グルカンの恩恵にはあずからないということです。大麦は、50年前は年間270万トン栽培されていましたが、現在は17万トンと1割以下(しかも大半は酒用)に減ってしまいました。大麦の摂取量が減るのに反比例して、糖尿病の有病率がどんどんと上がっているというデータもあります。そういう背景のもと、農水省の支援も得て、東海林博士は食品としての大麦の普及に尽力されておられます。最近はサプリメントや健康食品がブームとなっていますが、化学を学んだ私たちはCMを鵜吞みにせず、具体的なデータをもとに自分で考えなければということを改めて感じました。

  中井武先生は、「有機合成徒然草:有機合成化学の歴史と役割を考える」という題でお話しされました。中井先生は、「転位の中井」と言われるほど転位反応で素晴らしい業績を挙げられたことで著名な先生です。同時に、化学者の歴史に関して深い造詣を持っておられることも良く知られています。個人的なことで数十年前のことですが、ハイデルベルグでの国際会議で中井先生とご一緒させていただいたことがあります。ハイデルベルグ城の中庭でのコンサート(なんと学会主催)のあとで、街に下りてきながらこの建物に誰がいたとか、ブンゼンの銅像とか、教えていただいたことを思い出します。

  ご講演は、1824年にLiebigが21歳でギーセン大学に化学教室を開設されたことから始まりました。19世紀ではErlenmeyer、Kekule、Hoffmann転位、Beckmann転位(さすがに転位の中井先生です)などとともに、長井長義先生のエフェドリンの分離がこの時代になされたことも紹介されました。20世紀前半の化学では、Claisen転位の発見、Robinsonのトロピンの全合成、Diels-Alder反応の発見(二人は師弟関係だけど仲が悪かったという逸話も含めて)とともに、わが国でも高峰譲吉先生、真島利行先生、鈴木梅太郎先生が頑張っておられたことを紹介されました。また、Liebigの流れの系図を示しながら、なんとこの中に42名ものノーベル化学賞受賞者がいることもお話しされました。併せて、「ドイツ化学の旅」という手書きの図もお示しされました。この限られた地域で化学の初期の重要な発見が続々と生まれたことは驚きです。

  話は飛んで、2010年のHeck先生、根岸英一先生、鈴木章先生のノーベル賞の話では、溝呂木先生がPdを触媒化することに成功したことを紹介され、早世された溝呂木先生を惜しまれました。
歴史から今後の有機化学に話しが変わると、段々と放談調になりました。中井先生は漫談と仰られていましたが、興味をもったのは日本の化学のレベルの高さでした。なんでもランキングされる世の中ですが、日本のトップ大学のランキングが下がったことが話題になっています。しかし、化学に限ってみれば、東大6位、Harvard7位、京大8位となっているそうです。化学は日本の得意分野です。この優位性を保ち、さらに上昇させるためには日本の化学教育を変革しなければならないということを述べられました。さらに、有機合成化学への期待として持続可能な有機合成への一層の努力、生命科学ベースの合成と物質科学ベースの合成のバランスを期待されご講演を終えられました。ご講演で使われたパワーポイントのファイルを希望される方がたくさんおられるほど、貴重な写真やデータも満載のご講演でした。
  講演の終了後は中井先生の乾杯のご発声のあと懇親会が開かれました。リピーターの多い集まりだけに親しい方々が多く、和やかに楽しいひと時が経ちました。

<第20回報告記>
小林 進

≪ゆうごう会≫とは

本会シニア世代個人会員を対象にした懇話会で、「少し学び(知る)、知的に(遊ぶ)、それを心でつなぎ(和の心)、誰でも気楽に参加し、楽しめる会」を趣旨とし、会の名称も、有合協と和の精神(融合)を意味する「ゆうごう会」と命名したものです。

講師の東海林義和先生(元ADEKA/日本総合技術研究所)

講師の東海林義和先生(元ADEKA/日本総合技術研究所)

講師の中井 武先生(東京工業大学名誉教授/本会名誉会員)

講師の中井 武先生(東京工業大学名誉教授/本会名誉会員)

井澤邦輔氏(ゆうごう会世話役/浜理薬品工業)

井澤邦輔氏(ゆうごう会世話役/浜理薬品工業)

伊藤健兒先生(ゆうごう会世話役/名大名誉教授)

伊藤健兒先生(ゆうごう会世話役/名大名誉教授)

只野金一先生(ゆうごう会世話役/乙卯研究所)

只野金一先生(ゆうごう会世話役/乙卯研究所)

小林 進先生(ゆうごう会世話役/東京理大名誉教授)

小林 進先生(ゆうごう会世話役/東京理大名誉教授)

本田利雄先生(星薬大名誉教授)

本田利雄先生(星薬大名誉教授)

猪居 武氏(元チッソ)

猪居 武氏(元チッソ)

福山 透先生(名大院創薬科学)

福山 透先生(名大院創薬科学)

講演の部の1コマ

講演の部の1コマ

左から只野金一先生(前出)、福山 透先生(前出)

左から只野金一先生(前出)、福山 透先生(前出)

左から平岡哲夫先生(THS研究所)、岩隈建男氏(前出)

左から平岡哲夫先生(THS研究所)、岩隈建男氏(前出)

左から岡田 至氏(元アグロカネショウ)、渥美國夫氏(南海化学R&D)、飯沼勝春氏(ゆうごう会世話役/JSR)

左から岡田 至氏(元アグロカネショウ)、渥美國夫氏(南海化学R&D)、飯沼勝春氏(ゆうごう会世話役/JSR)

左から今木 直氏(ゆうごう会世話役/元三菱化学)、本田利雄先生(前出)、井原正隆先生

左から今木 直氏(ゆうごう会世話役/元三菱化学)、本田利雄先生(前出)、井原正隆先生(星薬大特任教授)

講師の東海林義和先生(前出)と高須 到氏(元ダイセル)

講師の東海林義和先生(前出)と高須 到氏(元ダイセル)

山辺正顕先生(産総研)と、講師の中井 武先生(前出)

山辺正顕先生(産総研)と、講師の中井 武先生(前出)

左から今本恒雄先生(千葉大名誉教授)、猪居 武氏(前出)、伊藤健兒先生(前出)

左から今本恒雄先生(千葉大名誉教授)、猪居 武氏(前出)、伊藤健兒先生(前出)

左から本田正男氏(元グローバルテクノ)、小林 進先生(前出)

左から本田正男氏(元グローバルテクノ)、小林 進先生(前出)

左から今木 直氏(前出)、井原正隆先生(前出)、井澤邦輔氏(前出)、藤田眞作先生(湘南情報数理化学研究所)

左から今木 直氏(前出)、井原正隆先生(前出)、井澤邦輔氏(前出)、藤田眞作先生(湘南情報数理化学研究所)

左から本田利雄先生(前出)、池上四郎先生(帝京大名誉教授)、只野金一先生(前出)

左から本田利雄先生(前出)、池上四郎先生(帝京大名誉教授)、只野金一先生(前出)

左から岡村真延(本会事務局)、橋本俊彦氏(元有機合成化学協会)、井原正隆先生(前出)、藤田眞作先生(前出)、今本恒雄先生(前出)

左から岡村真延(本会事務局)、橋本俊彦氏(元有機合成化学協会)、井原正隆先生(前出)、藤田眞作先生(前出)、今本恒雄先生(前出)

お問い合わせ

〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台1-5 化学会館
公益社団法人有機合成化学協会「ゆうごう会」係
(電話 03-3292-7621)(FAX 03-3292-7622)
e-mail : syn.org.chem@tokyo.email.ne.jp

ページ更新日
2016年12月21日