公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

温故知新
岸田 有吉


 有機合成化学協会は本年8月1日をもって創立50周年を迎えた。会員各位と共にこれを心から喜びたい。

 ご存知の通り既に記念事業も着々と進み,特に8月3,4日には記念式典につづき開催された記念国際シンポジウムではノーベル化学賞のCorey教授を含む内外のトップクラスの有機合成化学者による特別講演は参加者に多大な感銘を与え,今さらながら化学式という共通の言語を持つ者のうち建てた美しい楼閣を見る思いがした。この楼閣が砂上のそれでないことは諸先輩の残された業績を見れば明らかであろう。この機会に50年前の当協会設立当時のことを振り返ってみたい。協会の沿革小史-本誌10巻10号(1952)には次の記載がある:協会の設立に,陽動的な動機となったのは,昭和17年2月19日日本学術振興会第12小委員会(有機合成)席上で前会長眞島利行博士が掲案せられた協会設立の動議であった。その主旨は~(中略)~とあって,(1)有機合成化学工業全般にわたる全技術者団体を作り,(2)学術振興会の事業-審議→調査,研究-に類する事業を行い,(3)機関雑誌をも発行するという目標であった。昭和17年8月1日現在の会員は,維持会員82社(会費一口100円),通常会員322名(10円)。これを所属別にみるに,軍45名,官41名,学会81名,研究所37名,統制団体2名,有機化学工業に従事する個人109名 その他7名となっていて,設立当初の目的であった有機合成化学工業全般にわたる全技術者同体という点はほぼ達せられていた。また会誌の発行に関しては「昭和17年秋以来新聞雑誌界は画期的な整理統合の巨歩が進められており,今年(18年)に入っては新規発行の如きは殆んど不許可にも等しい厳重な取締が励行されてをる有様でありまして」とあるように発行の目途がつかなかった。その間仮りに8ページ程度の会報を発行することとなり,B列5判で月1回6号まで発行した。第1号は昭和18年2月28日発行“本協会の構成について”・・・まさに当時の苦労が生々しく語られ,その様子が眼前に彷彿される。先人の努力のおかげで当協会は一歩一歩その基盤をかたくし,現在約5,500名の個人会員と260社の維持会員を擁するまでになった。

 戦後間もなくの頃ロジャー・アダムス教授が日本の有機化学の発表雑誌が余りに多いことを指摘し,欧文誌にまとめることを進言したと伝えられている。わが国の現状はこの指摘とは正反対であることは申すまでもないが,わが協会誌は理工薬農を中心として有機合成化学に立脚した産学の研究者に広く利用され,第二次情報誌として非常に高く評価されていることはよく知られているが,これは会員諸賢の努力の賜物であり,私もこの良き伝統がいつまでも守られることを期待している。

 さて,現在の科学技術に目を向けて見るとエレクトロニクス・新素材・バイオテクノロジーの三大技術が人間の生活を疑いもなく豊かにまた高度化している。最近では特にバイオテクノロジーが耳目を集めており,有機合成化学に携わる者も避けて通れないものがある。キャタリティックアンチボディーや分子認識,酵素による不斉合成の様な考え方や研究方法が広く認められ,すばらしい成果を生んでいるが,化学と生物学との接近はバイオテクノロジー的な物の考え方や手法がどんどん有機合成化学の分野にも入り込んで,モル・レベルに近づけば近づく程化学者の仕事もふえて新しい枝葉を広げて行くことになるであろう。このように有機合成化学が垣根を取り払いますますその領域を広げていく今,わが有機合成化学協会も来るべき21世紀に向け国際化していく準備と努力が必要であることを先人の勇気に学びたいと思う。


(平成4年8月7日受理)
ページ更新日
2012年4月23日