公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

協会誌の国際化に向けて
岡崎 廉治


 学科(Department)制でなく学部(Faculty)制をとる日本の大学において,工学,薬学,理学およびその集合体である企業の間を結びつける絆としての有機合成化学協会の重要な役割は,会員諸氏の広く認めるところであり,日本の有機化学における研究成果を二次情報として提供し続けてきた意義はきわめて大きい。しかし,高度情報化の一層進む今後の世界の科学の中で,本協会誌の将来がどうあるべきかについて,会員の間で常に活発な議論がされている必要があろう。

 本協会誌の将来を考えるとき,国際化は一つの重要なキーワードである。化学はドイツ,フランス,イギリス等のヨーロッパ諸国を中心に発展したが,第二次大戦後その中心はアメリカに移った。それに伴い英語が国際語となったが,その傾向は自然科学の領域で特に著しい。“Beilstein”も今は英語で出版され,Chem. Ber., Liebigs Annalenなどのドイツ系の雑誌はもちろん,自国の言語をことのほか尊重するフランスでさえ,学会誌(Bull. Soc. Chim. Fr.)中の論文はそのほとんどが英語で発表されている。日本の研究者から発信される一次情報の大部分も英語でなされ,しかもその多くが海外の雑誌を発表の場としている。総説などの二次情報もまた然りである。今のところ,日本で発行されている英語による総説誌がないことから,英語で書きたいと思えば海外の雑誌に発表せざるを得ないのが現状である。

 この意味で,本誌11月号が試行的に英文で発行されることは画期的なことであり,喜ばしい。今後英語が国際語として一層多用されるであろうこと,それによる情報の英語による伝達が一層重要になるであろうことを考えると,今,英文による総合論文発行のスタートを切ることは時宜を得ている。

 本協会誌の良さの一つが日本語で気軽に読めることにあることはしばしば指摘されるところであり,その通りであろう。自分の専門と離れた分野の総説を読むときには,特にそうであろう。したがって,この長所は持続しつつ,国際化に向けて進む道を模索をする必要があろう。個人的意見としては,年4回(4ヵ月分)を英文版にあて,残りの8回(8ヵ月分)を従来の日本語版とするのが一つの目標になるのではないかと思う。これが順調に推移すれば,英文誌の独立が考えられる。諸外国の総説誌をとっても,英国化学会のChemical Society Reviewsは昨年から年6回になったもののそれまでは年4回の発行であったし,アメリカ化学会のChemical Reviewsでも年8回の発行である。英文版は年4回発行されれば,将来においても国際的評価は定着しうると考えられる。そのためには,外国の図書館での購入の促進をどう進めるかなどの問題が生ずるが,これは一朝一夕に解決はしない時間のかかる問題であり,マーケッティングに努力する一方,質の高い総説の継続的な掲載を重ねることで徐々に評価を得ていく以外道はないであろう。もちろん本誌は会員諸氏のために存在するのであり,会員のご意見を常にフィードバックして進む必要があることは言うまでもない。

 先に本協会誌の長所の一つが有機化学の広い分野の質の高い総説を日本語で読めることにあると書いたが,英語圏の国を除けば母国語でこれだけ充実した総説誌を持つのは日本ぐらいなのではないだろうか。もちろんドイツにはAngewandte Chemieがあるが,これには英語版がある。英語と同じ語族に属する言語を使用するヨーロッパの各国の研究者と日本の研究者を同じレベルで比較することは難しいが,彼らはほとんど全ての総説を英語で読んでいる。自然科学の研究者は今後ますます英語による情報の受信と発信を求められるであろう。これからの研究の担い手である大学生・大学院生の英語力は以前に比べれば,例えば会話力などは確かに高まっているように思う。また日本の英語教育の特徴として読解力もそれなりにあると思うが,作文力となると大変心もとない。そもそも日本語の作文さえもあまりトレーニングを受けていないのだから,まして英語においておやということであろうが,そんなことは言っておられない。自然科学系の大学生・大学院生には英作文それも実用的な英作文を教えるコースを是非設ける必要があると思う。20年後,30年後に彼らが本協会の主役となったとき,協会誌はどのように変わっているであろうか。楽しい夢である。


(平成6年8月23日受理)
ページ更新日
2012年4月23日