公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

科研費雑感
米光 宰


 本誌8月号会告3に森会長が「科研費予算大幅増額-多くの公募申請を期待する」との文を寄せられ,会員に対して強いアピールをされています。全く同感です。巻頭言でこの問題を取り上げますには若干迷いもありました。対象が大学や公的研究機関の研究者に限られる,平成7年度文部省科研費の申請は実質終った,問題は合成化学に限ったことではない,金のことよりまず研究を考えよ,など。しかし,科研費は研究者の命運を左右します。申請時だけ考えるものではありません。自ら顧みて慙愧に堪えませんが,良い研究をし,研究費を獲得し,さらに優れた研究に結びつける努力をしなければならないことは当然であります。お金を無能の言訳にできない時代になっています。

 大学の講座費などがほとんど横這い,実質減の状態が長く続いています。この中で,文部省科学研究費補助金(科研費)は昭和63年頃から顕著な伸びを示し,特に昨年平成5年度は13.9%,今年度は12%増,824億円と大幅に伸びています。もちろん,この金額は科研費全体の総額であり,一般の審査対象となる一般研究,奨励研究,総合研究,試験研究の予算は全体の半分強です。特別推進研究などの重点配分の部分などを除いてみたものです。これは,我が国の科研費対象研究者数約16万人に対するもので,民間企業の研究開発費を比べるまでもなく,まだまだ不十分ではあります。

 第2次大戦後50年,混乱続きの文教政策,特に最近の国立大学の改革は,先生方の多くの時間と労力を費やしています。しかもこれが,当初の指向とは裏腹に,研究組織面での将来の展望が必ずしも開けない危機感すらあります。次のステップのための対応が必要です。研究はまず人,それから組織,さらに場所、施設,お金,時間。お金が最初ではありませんが,他の条件のためのフィードバックをかける力となります。

 科研費は平成8年度目標1000億円とのことで、伸び率は文部省予算中突出しています。採択件数も毎年10%位増え,研究推進に対する金銭面からの基盤確立への努力がなされています。採択率は研究種目(一般研究ABC,奨励研究など)によって大きな差がありますが,全体としては新規応募件数の約30%弱となっており,毎年2%位伸びているようです。注意すべきは,採択率は分科・細目(化学の有機化学,物質変換,薬学の化学系薬学など)によって原則として差がないことです。審査は細目ごとに行われ全体の30%弱が採択となります。熱心にたくさん応募し,多額の要求をした研究領域が潤うことになります。化学は頑張らなければなりません。そのためには,私達一人ひとりが科研費を1件でも多く獲得し(明確な研究目的,具体的研究内容,業績を明記し,熱意をもって説得力と迫力のある申請書の作成が肝要),化学研究推進のための努力が必要であります。一方、膨大な審査の内容が非公開のため,疑義,不満,誤解など,申請書が真面目であるほど深刻ですが,こんなことにめげるわけにはいきません。

 比較的大型の一般研究AB(採択率20%弱)について化学系からの申請は物理系の約半分,生物系の1/3です。第一線化学研究者の奮起が必要です。

 科研賛全体の約30%を占める特別推進研究,がん特別研究,重点領域研究への対応は,化学の力を物理,生物,あるいは内外に示すもので,その重要性はいまさら多言を要しません。批判をおそれず取り組んでいただきたい研究者がたくさんおられると思えてなりません。

 科研費の申請総数は約8万件だそうで,科研費対象研究者は約16万人,同一人が複数申請しているケースが多いことを考えると,対象研究者の過半は全く申請していないことになります。特に私立大学からの申請が少ないため,当然採択も限られ,しかも偏在しています。十分な研究ができる環境にない,別な負担がかかりすぎている,教育が目的である,などと問題は簡単でないかも知れません。しかし,これは克服するしかないし,現に実行されている素晴らしい研究者もたくさんおられます。

 とりとめない文,結局は科研費(国民の血税ですが)を獲得し,皆で化学研究を推進させようというささやかな激文になってしまいました。頑張りましょう。


(平成6年8月30日受理)
ページ更新日
2012年4月23日