公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

新年度を迎えるにあたって想う
甲斐 學


 冬から春にかけては夜空を飾る星座が絢欄豪華である。星座や惑星の動き,暦などを眺めるにつけ数千年も昔の人達の観察の鋭さ,丁寧さに感心させられる。木星(歳星)の公転周期が12年であるなどよく見つけたものだ。

 なにも星空だけに限ったことではない。昔の人達は自然と深くかかわりながら生活をし,自然のありのままを実に良く観察し記録してきた。

 それにひきかえ,文明度が進み世の中が便利になるにつれて自然に親しむ機会が少なくなり,自然を自分の目で観察したり,その本質を徹底的に考察したりする習慣が薄れてきているのは残念なことである。

 3月は年度末,来月から新年度が始まる。新しい環境に巣だたれる方も多いと思う。できるだけ自然に触れ,自然から学ぶ機会を積極的につくっていただきたい。学校で学ばれたことを実際に生かすためには,

1)問題意識を持って,積極的に参加する意欲,行動力
2)観る能力と聞く能力
3)思考実験能力
4)デザインする心と表現力
5)協業能力
6)問題解決の処理パターン

などを常に意識しブラッシュアップしておかなければならない。こんなことは自分一人ではとてもできないので専門にこだわらずに,同世代の素敵な人達と励ましあいながら実践していただきたい。

 私も今年の春分で還暦を迎えた。これを概会に思いきって,大好きなお酒をひかえて時間を捻出し,謙虚に必要な事柄を吸収するための時間をふやす所存である。幸いこれまでの体験から,手段として使うぐらいの知識なら,必要を感じた時に勉強をはじめて遅すぎることはないと信じている。

 有機合成ということになると私が担当者として最後に携わったのが,過酢酸とその誘導体の合成と利用にかかわる研究で,それはかれこれ20年も前のことである。

 今,有機合成の主流は複雑な生理活性物質の合成とその機能に関する仕事であって,優れた研究者達が素敵な着想を実現させるために高効率の分離手段や最新鋭の解析手段やコンピューターなどを駆使して,短時間に目覚しい業績を挙げておられるのは敬服に値する。

 しかし,簡単な構造を持つ基礎化学品は,その構造が簡単なだけに,抜本的なプロセス改善の糸口を見付けることがむつかしい。20世紀はあと4年,世間の移り変わりは大変速くて先行きの予測が大変困難になっている。今,化学企業は急速な人口増加問題を背景として,省資源,省エネルギー,化学品の安全性の保証と平和利用などについて積極的に取り組み,地球環境の改善に寄与するという責務を負わされている。

 これらについてのひとつの取り組みとして,新年度から通産省の基礎産業局の御指導で,次世代化学プロセス技術開発の研究(シンプル・ケミストリー計画)があると聞いて,大変心丈夫に思っている。

 これは複雑な反応プロセスを単純化することによって,

(1)エネルギー使用の合理化
(2)炭酸ガスの排出削減
(3)廃棄物の排出削減
(4)副生成物の生産抑制
などを実現することによって, (1)21世紀に向けた強靱な化学産業の創生
(2)環境に優しい化学産業の創生
(3)省エネルギー型化学産業の創生

を狙っておられるらしい。

 かなり基礎的な研究も必要だから,通り一遍のアプローチでは成果が得られないと思うが,このような試みによって反応触媒の新しいコンセプトが形成されたり,触媒探索ができれば,画期的なプロセス開発のきっかけになるものと期待している。


(平成7年1月19日受理)
ページ更新日
2012年4月20日