公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

英文誌の飛躍的発展を
中西 香爾


 有機合成化学協会からの封筒を開いたところ,協会誌の英文特別号が2冊入っていた。意外だったがすぐにこれはすごいと思った。今までも協会誌の総合論文,総説は立派であると感心はしていたが,専門が合成ではなく,一次情報誌の論文すら読む時間がなくなっている現状で,残念ながら完全に読んだものはほとんどない。

 私は1957年の東京教育大学時代から,研究室の卒論学位論文はすべて英語にしており,私自身昔から化学は日本語より英語のほうがとっつきやすかった。それで協会誌の総合論文も,日本語であることも一因となって,無意識のうちに抵抗を感じていたのではないかと思う。それが今回の英文誌は自然に頁をめくることになったし,すぐにStork教授の室にも持参した所以である。アメリカには合成屋がなくなり,日本は羨ましいとかねがね嘆いている同教授が英文誌を見て感心したのはいうまでもない。

 今年初頭日本に行った時に,数カ所で「今度の英文誌はいいですね」といったところ,「いや,日本での評判は必ずしもいいとはいえない,日本にいるのになぜ金をかけて英文誌を出すのかという批判も出ているのです」という返事が返って,こんな見方もあるのかと呆れてしまった。あの伝統的なChem. Ber.やLiebigs Annalenでさえ全誌英文に変えることが検討されつつあるとの話を最近ドイツで聞いたので付記する。

 日本の大学は学部制なので理,工,薬,農で内容の似た論文がいくつかの学会から英和何種もの雑誌に分散されて出版されている。これではインパクトが低いので,必然的に著者の自信のある論文のほとんどが欧米の学会誌や商業誌に流出している。世界トップクラスの英文誌が日本にない現状では致し方ないことかと思う。このあたりの私見については,昨年の「化学と工業」10月号,p.1324に書かせてもらった。

 日本には昔から化学の立派な総説誌が多い。それはそれなりに良いが,私には若い研究者が和文総説を書くのに費やす時間が大変気になる。日本では各種研究会や講習会,学会が国土が狭いにもかかわらず大変多いので,お互いに何をしているかの情報はかなりいきわたっている。しかし肝要なのは日本の業績を外国に知らせることである。その意味で英語で総説を出すことの意義はきわめて大きい。日本化学の英文総説誌が世界各大学の図書室や個人購読者に常時送られる状態になれば,我が国の化学に対する認識がさらに高まることは必然である。

 3学会の一次情報誌が一本化されて総合英文誌の形になることは残念ながらまだかなり将来のことかと思う。こんな時に協会から日本初の英文総合論文誌が出版された。まだ英文誌が1冊出ただけなので,この際誌名も例えばReviews in Chemistry and Related Areas-Japanくらいに思い切って変えてしまい,日本の研究者が永年気にしていた統合英文誌のない悩みを,少なくとも総合論文誌から決着を付けられないものだろうか。そして広く総合論文を募集し,年6回くらい出すことを目標にできないものだろうか。

 企業,官庁,学会その他からの資金を募って,恒久的な編集者に運営を委託する。また英語に堪能な専門翻訳者あるいは英語国民を協会で数人雇って,英文で書くのに抵抗を感ずる研究者の総説を翻訳したり英文の投稿総説を修正する。Angewandte Chemieではよく知られているように,以前から英独版を同時出版している。日本の事情はかなり異なってはいるものの現在これができないはずがない。せっかく初めて英文総合論文誌を有機合成を中心として出すところまできたのだから,この際さらに一歩進めて上記のようなシステムを取り入れ,化学全体の英文総合論文誌を出されることを強く期待する。

 今回英文誌を出すところまで持ってこられた協会や,協会誌の関係者の英断に深い敬意を表し,さらなる英断をお願いする次第である。上記の提案が現状からかなりかけ離れており,また実施が困難であることを承知の上で,せっかくの機会なのであえて本文を書かせていただいた。なお,最後にあるREVINDEXの短い説明が英文に訳されていなかったのは残念。




(平成7年2月21日受理)
ページ更新日
2012年4月20日