公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

情報の受信から発信へ
古賀 憲司


 有機合成化学協会誌の11月号を受け取って,本誌の年12号の中の1号を英文で発行し始めた頃のことを思い出した。

 本誌の英文号を作製してはどうかという意見は以前からあったと聞いているが,私がこの問題に具体的にかかわったのは,私が有機合成化学協会の理事として初めて協会のお手伝いを始めた時であった。その頃来日された米国T大学のM教授から,同教授のかつての学生が関与している出版社の意向として,有機合成化学協会誌,日本化学会誌,薬学雑誌の英訳誌の作製と販売をさせてくれないかという申し入れがあった。私は,当時の化学会と薬学会の担当理事の先生を紹介すると共に,本誌に関しては,同教授から詳しくその申し入れの内容を聴取した記憶がある。この申し入れは,当時の本協会の理事会で議題となった。また,本誌に対して同様の申し入れがヨーロッパのある著名な出版社からもあったと記憶している。しかし,これらの申し入れはいずれも不調に終わった。

 私が本協会の理事として二度目のお手伝いを始めたときには,すでに理事会では,本誌のうちの何号かを英文で出版することが議論されていた。当時の本誌編集委員長であった岡崎廉治教授は強力にその実現に努力され,さしあたり年12号のうちの1号を英文にするという編集委員会の意向で理事会の承認を取られると共に,編集委員会の中に英文誌小委員会を設置してその具体化の検討を命じられた。次期の編集委員長に予定されていた私は,必然的にこれに巻き込まれた。優れた有機合成化学者の多い日本であるから,自分の研究を中心にした総合論文(account)を依頼する著者を選ぶのには全く困らなかったが,経済的基盤が必ずしも磐石ではない本協会としては,制作コストをどのように抑えるか,論文1編のページ数をどの程度にするか,英文チェックをどうするか,年に1号の発行であるから,原稿が遅れて間に合わなかったらどうするか,等の問題が山積しているのには困惑した。それだけに,英文誌小委員会や事務局の努力でこれらの問題を次々にクリヤーし,camera-readyの最終原稿も期日内に集まって,最初の英文号が1994,52,No.11として手許に届いたときはうれしかった。この号は世界の約200の代表的な研究者(大学,研究所)に贈られたが,それに対してこの英文号の発行を支持する多くのお礼状が届いたこと,中西香爾教授(本誌,1995,51,267)や野崎一教授(本誌,1995,53,939)から暖かいコメントをいただいたこと,中井武教授が行われた会員へのアンケート(本誌,1995,53,1150)によって,英文号の発行が本協会会員に支持されていることには,感激した。

 日本の有機化学の研究成果は現在,その多くが欧米の学術雑誌に発表されている。優れた成果であればあるほど,その傾向は強い。これは,日本の大学における有機化学のアクティビティーが,理,工,農,薬等に分かれており,それを反映して,学会もいくつかに分かれ,各学会がそれぞれ独自の一次情報誌を発行していて,各雑誌の密度が薄くなっていることにも原因があると思われる。一昔前と比べると,日本の有機化学のレベルは格段に発展したと言われているが,それにしては母屋を借りている感のあるこの現状は残念である。色々の行きがかりはあると思われるが,日本の各学会の有機化学の一次情報誌を統合し,世界トップクラスの一次情報誌を英文で日本で発行することによって,日本から世界にむけて情報を発信することを真剣に考える時がきているのではないだろうか。

 有機合成化学協会はこの点で極めて異質であり,理,工,農,薬等の学部の背景をもつ大学,企業等の研究者が集まって構成されている。従って本誌は,学部のバリヤーもなく,密度を薄めることなく日本の有機合成化学の現状を示す総説誌である。本誌英文号は,日本の有機合成化学の成果を世界に向けて発信する二次情報誌としてその意義は極めて大きい。残念ながら現状では年に1号であるが,これを2号あるいは3号発行することによって本誌英文号を独立誌とし,世界から購読者を得る方向で発展させることはできないものかと夢見ている。


(平成9年12月3日受理)
ページ更新日
2012年4月19日