公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

21世紀に向けての化学技術者の課題
高瀬 勉


 化学技術・化学産業は,過去100年にわたり人類と社会の発展に人きく貢献してきたが,この地球上で自然には発生し得ない物質を創出することを,その技術の基本とするがゆえに,地球環境に,多かれ少なかれ影響を及ぼしたことは歴史的に見ても否めない事実である。今後化学産業が生き残る路は,地球環境ならびに人類との調和を行動の大前提とする産業理念の確立にある。地球環境と人類に対する安全性,信頼性を確保することを使命とし,行動する企業のみが存続できるものと確信している。

 人間が活動する要素は物質,エネルギー,空間,時間の4つの要素である。有用な物質は化学合成によってのみ創出され,人類の種々の戦いの中から大きな進展がなされて来た。それは病原菌との戦いであったり,戦争あるいは宇宙戦争など生命を懸けた戦いから発展を遂げて来た。しかし近年は生活の豊かさや利便性を追求し,ますます量的拡大の方向に移行し,地球環境に大きな課題を残す結果となった。局所的に起こる問題については,比較的に対処しやすく,我が国においては充分な対策を講じて来たし今後も努力を怠らない。しかし環境ホルモンや炭酸ガス問題の如く,ブロードに起こる課題については世界規模での共同解決が必要となって来た。

 エネルギーに関してもその資源が無限であることを常識の中に入れ,莫大な消費を行って来た。知識や情報を包含する空間は今や指数関数的に増加拡大し,いかに集約,体系化するか,専門分化と統合体系化の問題が大きな課題となって来た。Dog Yearと言われるほどのスピーディーな技術革新・情報氾濫は時間を10倍の感覚で速めて来た。

 いずれの要素もOne Wayと言う効果の逆転現象(Peripetia)に陥っている。しかも人類規模,地球規模で起こっているこの課題は,個人の力量をはるかに超えたものであり,拡散された物質,技術,知識,情報,すべてを体系化してOne WayからRecycleの体制に修正しなければ人類は破滅する。

 これらの現象はいろいろな場面でも遭遇する。産学との関係においても産において複合体系化された技術をいかに学へ循環し,産学の目標、目的を一元化するかが「化学技術戦略推進機構」の大きな役割の一つでもある。

 有機合成技術に関してもますますSuper Specialty Chemicalsの領域に進展する。ミクロ反応場としての触媒,あるいはバイオテクノロジーとの複合も,分子レベルで制御される。しかもこれら触媒の中心には必ず無機化合物が存在する。有機合成と言えども周期率表のすべての元素に気を配る必要がある。

 さらに反応場としての周辺の条件も従来の単純な場から超臨界、強磁場,超音波領域,特殊波長光領域,極低温,ミクロ分散,固相反応など今後大きく変化する。また反応システムについても,液相,固相,気相で選択的に分離しながら反応するなど,新しいシステムの開発も進展するに違いない。これらの反応場変化に対応して,特殊材質も含めた種々の反応装置の進歩が追従しなければならない。

 21世紀は人類にとって1周期に当たる。拡大と循環,分化と統合,相反する条件をバランスさせる仕組み作りが必須である。幸いに急激に進歩して来たコンピュータ技術をフルに活用してこそそれが達成可能となるであろう。個人の力量は無力に近い。21世紀における化学技術者には高度の専門性と幅広い判断力を持つ総合件の両者が要求される。

 しかし,諸問題を解決し,かつ有用物質を創生する手段は化学技術に頼るしかない。21世紀は化学がセントラルサイエンスであると同時に主役を演じる時代である。


(平成10年7月6日受理)
ページ更新日
2012年4月19日