公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

日本の化学系学術情報誌の将来を考える
池上 四郎


 研究のコンセプトやその成果を発表するメディアとして雑誌の役割は大きいと共にそれはまた研究評価のためにも重要な役割を担っている。これら情報誌にも役割の違いから何次情報誌といわれている役割別分類がある。

 Webページを主とした電子情報の急速な進歩から,情報誌の質が変貌してきた。雑誌を発行している学会,協会,民間出版社などで全文データベース化が進み,研究者は研究室にいながらにしてWebページを通して検索を行い論文を読むことができる時代になってきた。

 さて,雑誌の世界的傾向を見てみよう。画期的な変更,改革を行ったのはヨーロッパであろう。古くから発刊し日本の高年齢の研究者にとって馴染のあるLiebig Annalen der ChemieChemishe Berichteなどが廃刊となり,有機化学分野ではイギリスを除くヨーロッパ全体で統一した新しい雑誌,Eur. J. Org. Chem.一誌に統一したことである。長い歴史と伝統を有し,しかも極めて重要な役割を果たしてきた雑誌を廃刊にする勇気には敬服するばかりである。一方,米国化学会でも新しいコンセプトに基づいて新しい速報誌,Organic Lettersが発刊された。J. Org. Chem.の速報の部をこの速報誌へ移行することが目的であるばかりでなく,Tetrahedron Lett. のような民間出版社の雑誌に対抗し,学会出版誌へ報文を取り戻す意図も十分うかがえる。

 日本ではどうであろうか。以前から何回も討議はされてきたようであるが,今までも各学協会で統廃合の動きはない。日本学術会議に組織されている研究連絡委員会の1つである化学研究連絡委員会(化研連)は4-7部にまたがり,6つの専門委員会から構成される最も強力な研連の1つである。この化研連にも日本における化学情報誌の在り方を討議する学術情報誌小委員会がある。学術情報誌に対する科研費の助成打ち切りか,または減額を臭わす文部省に対して発足した小委員会であるが,討議はそんなに進んでいないのが実情である。一方,この助成金に大きく依存している学協会にとっては死活問題となるので,平成10年9月,7学会が協力して「学協会における一次情報誌活動に対する助成について」なる要望書を文部省学術情報課長あて提出した。その中では,自国による学術情報発信機能の強化は国家的課題であること,海外の出版社への論文の流出はなぜ起こるのか,海外の論文誌および出版社の特徴,我が国の論文誌と今後の方向,世界の一流誌にするための基盤の強化,等の解析を通して論文誌発行事業の基盤強化が述べられている。このような論議は過去何回となくなされてきただろう。しかし,その後がないのは何故であろうか。それは,論議のスタートとなる「日本での学術情報誌の在り方について」各学協会の壁を越えた論議がなされていないことにあると考える。

 化学会では2001年発行を目指して8学協会にまたがる総合論文誌として二次情報誌に分類される仮名“Chemical Intelligence”を企画している。それぞれの学協会の協力のもとに新鮮な学術誌として成功されることを期待している。

 さて,有機合成化学協会誌はどうであろうか 。二次情報誌として有機合成化学の分野では広く世界的に高い評価を受けているといっても過言ではない。編集委員長を勤めさせていただいてから十余年が経つが,当時は雑誌の質向上のみを考えて委員会では白熱した議論を展開していた。その後,当協会誌への補助金の打ち切りが現実となり,二次情報誌の宿命が浮き彫りになった。当協会誌は日本語で書かれた総合論文であるが,早くから世界的にも有名となり外国からの別冊請求も多いが,残念ながら英語版は数えられるくらいである。望むなら年1回の発行は徐々に増やす方向で検討され,有機合成化学に関する学術誌としてその基盤をさらに強化されることを祈って止まない。なお,今年度従来とほぼ同額の補助金が交付されたのは本協会誌の役割からみて当然のことであろう。

 結びにあたり,ともすれば過去の実績とか慣習に捕らわれがちな日本においては,従来と全く異なる改革を行うのは至難の業である。例え改革を行ったとしても,過去の歴史は消えるものではなく将来の研究者は,先達者はこのような理念で改革を遂行したのかと思うであろう。過去も大切であるが,世界におけるこれからの日本での学会の役割,雑誌の役割を思うとき,よく熟慮した上で,関連学協会が連携して勇気をもって改革に着手すべき時にあると考える。


(平成11年10月14日)
ページ更新日
2012年4月17日