公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

雑感
中川 昌子


 数年前に本誌の編集に携わった時の議論が思い出される。現在年1回11月号が英文版となっているが,もう少し英文版を増やしてはどうか,という点がその1つであった。これは長年論点となってきたものである。もし英語で書かれていれば,海外でも広く読まれる可能性はある。一方で本誌は日本の有機化学の発展に大きく貢献してきたと言っても過言ではない。特に日本語で読めるという点で大学院生や若い研究者の研究と教育のレベルアップに果してきた役割は大きい。その意味で現状では日本語の総説誌はなんとか残す意味があるであろう。

 一方, 近年海外では学会主催のジャーナルの再編成強化や出版社主催のジャーナルもその存続をかけて多岐に渡る企業努力を重ねている。さらにコンピューター支援のジャーナルの利用やまた論文の投稿形式の変貌には目をみはるものがある。他方,研究内容も多彩になり,対応する専門誌も増えた。そして日本からは勿論,韓国,中国などアジアからも優れた欧米誌への投稿が増えている。これらの論文が日本発の雑誌に集まればアジアのサイエンスのレベルが正しく理解されやすくなるのではないかと残念に思われる。日本には化学関連の協会が多く存在しているが,それぞれに分野をもっている。そのために統合を考えるとき複雑になってくる。しかし有機化学,特に有機合成に絞ってみると本協会はその中心になりやすい。有機合成化学協会の将来を考える時,時期はまだ早いが有機合成化学を中心にしたアジアのまとめができないものかと思われる。勿論その結果,扱う課題も数多くなるであろう。しかし遅かれ,早かれ多方面からの変革といわゆる国際化の波によって,本誌の世界へ向けての情報発信をどうするのか再度検討せざるをえない時がくるのではなかろうか。国外誌が多くなり,日本のハイレベルの論文が分散していくのはどんなものかと気にしながらも,しかし多くの研究者はよりデストリビューションの広い,そしてインパクトファクターの高い欧米誌へと投稿しているのではなかろうか。対応する国内誌がない今の自然の流れであろう。「¥と$とユーロの関係」問題は投稿者の意識改革が必要なのかもしれない。

 一方で有機合成の分野はますます拡大している。方向転換しているのではない。地球に優しい化学(グリーンケミストリー)を考える時,古い化合物や簡単な化合物でも理想的な合成法は意外に少ない。有機合成はまだ発展途上の分野で合成反応でメカニズムのはっきりしているものは,わずかではないか。有機合成の基本体系の確立への努力がますます必要である。生物学,生命科学への参入はまさに有機合成の得意の技術(バイオテクノロジーを含めて)の応用問題としての魅力がある。有機合成が関与することで生命科学が発展してきている事例も多い。この中に私の関与している創薬の基本がはいる。医薬の生体の中での動きを分子レベルで解明するには酵素の回りだけではなく,より広い範囲(動物個体)での追求が必要であり,想定された,あるいはデザインされた化合物を作ることが決め手になることも多いはずである。有機化学以外の分野の研究が急速な進展をみせている今日,ますます生体の中で起こっている現象を化学反応として理解できる部分がより多くなるであろう。有機合成を武器にして活躍できる場が今までに増して広がりつつある。今程有機合成化学が面白いときはないのではないかとさえ思われる。


(1999年12月15日受理)
ページ更新日
2012年4月17日