公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

「男女共同参画社会の実現に向けて」の流れの中で
森 美和子


 「国立大学の教官の20%を女性教員にしようと言い出したんだって」。というセンセーショナルな話題が確かどこかの大学で講演をさせていただいた後のほっとしたひとときの話題としてのぼった。「そんなことをいったって女子学生だってうちには20%もいないよ」というのがおおかたのそこにおられた男性の諸先生の言葉であった。当然のこと,私の所属する薬学部でさえ女子学生は沢山いるが,修士課程の女性は恐らく学年に60名中15名足らず,博士課程にいたっては各学年に1人か2人というところであろう。大学に戻ってこの面に詳しい友人に電話をかけたところ分厚い書類が送られてきた。「国立大学における男女共同参画を推進するために」一国立大学協会-とある。私は知らなかったがすでに北大でも男女共同参画に関わるワーキング・グループができており,彼女はそのメンバーの一員であった。その分厚い書類をめくっていくと統計的分析がまず目に付く。4年生大学の教員(教授,助教授,講師)における女性教員の比率は全体として10.1%,中でも国立大学における女性教員は6.6%とあり,職階別に見ると講師が11.8%を占めるが,助教授で7.9%,教授は4.1%と階層があがるに従ってその比率が極端に下がってしまう。理系においては教授は工学系が1.3%,理学系が2.6%,農学,水産系が1.6%(平成10年度)とある。恐らく国立大学の理系の女性教授は数えるくらいの存在であるに違いない。これを諸外国と比較したデータも載せられており,例えばアメリカでは1985-1995年の10年間に着実に女性教員の数は増加し,教授でも17.8%に達しているという。勿論専門分野によりかなりの偏りはあるが,工学系(6.2%),農学系(9.9%),物理学系(13.8%)となっている。ヨーロッパに目を移すともっと高い国からもっと低い国まであるが,日本に比べると遥かに進んでいる。これを将来とりあえず20%に増加させるなんて信じられないと思って見ていくと,達成させるためのタイムテーブルの設定もある。研究者の養成機関である博士課程における女性比率は現在23.6%(国立大学においては21.6%,公立大学23.0%,私立大学29.6%)であり,これは将来上昇すると予想されるので2010年までに国立大学の女性教員比率を20%に引き上げることを達成日標として設定するとあった。これは私の認識を遥かに超え,博士課程に在籍する女性はすでに全体の1/4を占めていたことになる。勿論すべての分野を含めての議論であるから理系の大学院ではもっと少ないに違いない。でも,もしかすると日本でも10年後には女性教員は20%位までは達成するのかもしれない。ふとあることを思い出した。いつも4月にはたくさんの友人が異動の通知を下さる。昨年4月に3人の方から異動を知らせる葉書をいただいた。教授に1人,助教授に2人の方が昇進しておられ,いずれも女性の方であった。企業で働き続ける女性研究者も珍しくなく,子供を育てながら働く女性も増えてきた。昔私達は少々肩ひじを張って仕事をしてきたけれど,今の人たちはもっともっと肩に力を入れず普通にやっていくに違いない。47年間勤めた気象庁気象研究所を定年退官された猿橋勝子先生が退官された折に,集まった祝い金を基に女性研究者を励ますために「女性研究者に明るい未来をの会」を作られた。その行事の1つとして1981年に「猿橋賞」を設けられて早くも20年経っている。先日20周年を記念して受賞者を海外に紹介する英文書を出版することになって,そのメンバーの一覧表をいただいた。猿橋賞は60歳未満の女性研究者に贈られる。1991年に私がいただいた時,それ以前に受賞された方々の肩書きのほとんどは助教授であったと記憶している。しかし今回その表を見ると,若い方を除いて大学に勤務している女性研究者のほとんどの方は教授に昇進されており,研究機関の方々はそれぞれ重要なポジションについておられる。「猿橋賞」の結果であることはもちろんのことであるが,10年前にはほとんど閉ざされていた教授への昇進が,この10年間で確実に開かれてきている。若い女性研究者の方々が,この時代の風を背に受け,様々な分野で活躍していかれることを切望している。


(2000年12月28日受理)
ページ更新日
2012年4月17日