公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

21世紀は有機合成の時代
小倉 克之


 21世紀がスタートし,気持ちを新たにして新世紀にふさわしい研究に取り組んでおられることであろう。20世紀には,科学技術の急激なそして極めて大きな進展があり,私の学生時代(30-40年前)に想像していた以上に,高度な科学が展開している。科学の著しい進歩は有機合成化学者にとって大いに歓迎すべきことである。21世紀はIT(情報技術)とバイオの時代と声高に言われている。これらがさらに発展を遂げるためには,やはり原子・分子レベルで研究することが,当然ながら必要となる。原子・分子のレベルで考え,そして物質を組み上げる,さらには機能材料の開発を考えることはまさに化学であり,無限の広がりをもつ有機化合物を対象とする有機合成化学が推進力を発揮する。まさに,21世紀は有機合成の時代ということができる。

研究の若さと成熟,そして・・・
 大学院を修了して研究所に勤めた折,研究の進め方についてよく議論したことを思い出す。「化学」は我々の周囲のいたるところに存在している。自然界を眺めても,我々自身を眺めても,我々の周囲はすべて「化学」に満ち満ちている。どのような研究を手掛けるかは,この無限に存在している「化学」から選ぶことができる。

 この無限に広がる化学という世界で新たな発見をし,これぞ新しい分野であると基礎を固める研究がある。新大陸が発見され,入植者が西へ西へと向かったイメージに通じるものがある。新しい金鉱を求め,そして発見,そこに新しい町が生まれる。この金鉱が化学の新分野である。無限の可能性を秘めている魅力的な分野の発見,そこに研究の若さを見ることができる。未知の魅力を感じ,心躍らせる「化学」の誕生である。

 研究のもう1つのタイプとして,基礎的な知見が確立されている分野で,それを核にしてその限界を求める,あるいはさらに進展させる,そして実用化へと展開させる研究がある。ある意味では成熟期の研究ということができよう。成熟した研究分野を着実に進んでいくことは必要であり,重要である。成熟期分野の研究を行っている途上に,新しい化学を見いだすこともある。いわゆるセレンディピティである。このためには,未知への思いを常に抱いていることがとても重要な気がする。また,成熟期の研究では,何となく続行してしまう恐れがあり,私もできるだけ目的意識を明確に持つように注意をはらっている。

21世紀の有機合成
 白川先生が昨年度のノーベル賞を受賞され,日本の研究のあり方についていろいろと話されている。研究の若さを常に求めながら,成熟した分野に育て上げること,そして,大きく花聞かせること,それは21世紀に課せられた我々「有機合成化学者」の課題ということができよう。20世紀の後半には,集合の化学が盛んになった。また,現在も盛んに行われている。分子が自己集合して新しい構造体をつくる,あるいは素晴らしい機能を発現する。この分野の研究はさらに盛んになり,花開く成果を挙げるであろう。21世紀にはもう1つ,分子レベルでの研究,このレベルでの機能開発が重要性を増してくると考える。たとえば、ロボット時代の到来には,デバイスの高機能化,極小化が求められる。このことを実現するために,分子そのものを利用する分子素子の開発が必要になる。他のいろいろな機能材料も同様である。複雑な有機分子の分子設計とその構築が必要であり、まさに有機合成時代の到来である。これまでに,複雑な生理活性物質の合成に極めて高度な手法が駆使されてきた有機合成に,さらに磨きをかける必要がある。この場合,ただ有機合成に留まっていると,他領域の請負になりかねない。やはり有機合成,さらには化学から一歩踏み出すことも必要でなかろうか。前述したように,新しい分野は我々の周りに無限にあり,それに立ち向かう心とともに,幅広く勉強をしておくことが必要である。若い研究者には自分の行っている研究だけに目を奪われることなく,常に別の分野・領域にも関心を向けていただくことを切望して,筆を置く。

(2001年1月22日受理)
ページ更新日
2012年4月17日