公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

大学における学術研究と科学研究費
鈴木 昭憲


 今日,社会では,各方面で「改革」への期待が高まっている。これは,社会を被う将来への不安と閉塞感,これらを克服して明るい将来の展望への希求の表明である。そのなか,次代の我が国のあり方として,これまでの経済発展万能にかわって,学術創造立国・科学技術創造立国がいわれている。この際,大学の学術研究が,その推進力になり得るか否か。大学に席を置く研究者の責任はまことに大きい。

 学術研究が人類の知的基盤の形成に貢献するものとすれば,当然のこととして,先導的・独創的学術研究の振興が求められる。比較的最近にいたるまで,我が国の学術研究は,一部例外を除いて,先導性・独創性において不十分であるとされる。これは,これまでの我が国の経済力や歴史を考慮すれば致し方なかったともいえよう。しかしながら,今日の我が国の国力を考えるとき,我が国は学術研究において,世界の学術研究に追随・追走の段階から一刻も早く脱して,我が国の研究が世界学術を先導性と独創性においてリードしていくとの気概をもって取り組まねばならない。すなわち,学術研究振興の基本的な視点は,その先導性と独創性の尊重にある。この点において,昨年,白川博士がノーベル賞を受賞されたことは,まことに意義深いことであった。  学術研究は,各研究者の知的興味あるいは専門家としての使命感を基本として行われ,その成果は研究者の独創性・創造性に負うところ大である。研究者の自主性尊重なくして独創的・創造的研究成果は望み得ない。その意味で,従来の科学研究費補助金は,研究者の自主的な研究プロジェクトの提案に対して,研究者によるピアレビューによる審査を経て研究支援されるシステムであり,我が国の基礎的な学術研究に対して大きな役割を果たしてきた。

 現在,科学技術基本計画に基づき各省庁等からの政策的な大型研究費が用意されてはきているが,それらの研究を担当する研究者は科学研究費によって育ってきたともいえる。研究者が広くアクセス可能であり,毎年2万件以上の新しい研究課題を採択,支援している科学研究費の仕組みは,基礎的な学術研究支援の仕組みとしてきわめて貴重である。今後とも,この制度を,うまく活用し発展させていくことは,大学の研究者の大きな責任であるといって過言でなかろう。ところで,科学研究費の審査について不満の声が聞かれるが,この点について審査員の候補者を推薦している学会の責任を忘れてはならない。

 大学の研究において,研究費については,その状況が大きく改善されてきているが,施設面については問題が多く残されている。とくに,大学院生の多い大学において施設の老朽化,狭隘化はいまだ解決されておらず,狭隘な研究室に多くの人を詰め込み安全面からも憂慮される状況にある大学が少なくない。最近の先端的研究では,研究施設等の研究条件が研究の成否やスピードを左右することが少なくない。研究条件の整備等に十分かつ適切な施策が求められる。大学・大学院の教育における国際競争力強化の視点からも施設の問題は決して軽視できないと思う。

 なお,大学・大学院における研究の高度化・活性化を考えるとき,先端的部分の競争強化による能力強化策とともに,幅広い裾野の部分をいかに育成していくかという視点を忘れてはならないことを指摘しておきたい。種を播かなければ,苗を育てなければ,豊かな実りは期待できないのである。

 最後に,秋田の農聖,石川理紀之助翁の歌を引用して,結びとする。

「雲をつく 富士の高ねの うごかぬは 広き裾野の あればなりけり」

(2001年5月16日受理)
ページ更新日
2012年4月17日