公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

野依良治さん、ノーベル賞受賞お目出度
伊藤 嘉彦


 21世紀の幕明けに有機合成化学の分野で金字塔を打ち立てノーベル化学賞を受賞された野依良治氏に心よりお祝い申し上げます。今や日本の有機合成化学は野依氏を頂点にして層の厚い研究者グループに成長し,特に,有機合成化学を指向する有機金属化学(OMCOS)では世界をリードしていると言えるのではないでしょうか。近年,金属元素の活用なしに新規な有機合成反応の開発は困難とも見えるほどです。金属元素の有機合成化学への利用は元をたどってみると有機亜鉛や有機マグネシウム(グリニャール試薬)にまでさかのぼりますが,半世紀前のチーグラー・ナッタ触媒の発見とフェロセンの発見が決定的で,その後の有機合成化学を変えました。OMCOS有機合成化学が多くの若い研究者を魅きつけて確かな大きな流れになっています。

 1950年代の中頃までは,こうした有機金属化学の分野は未発達で日本の大学のカリキュラムでは『無機化学』は伝統的な無機工業化学で,ガラス,セメント,ソーダ化学工業を中心に講義されていたのです。日本の大学,特に,工学部で学ぶ無機化学は他の主要科目に比べて立遅れていたように思えます。そこに無機化学と有機化学の境界領域と言うべき新しい学問分野が開けたわけです。この有機金属化学は新鮮で,魅力的であったのは言うまでもありません。多くの若い研究者を引き寄せました。

 この背景があった1950年代の初めに,その後の世界に大変革をもたらしたチーグラー・ナッタ触媒によるポリエチレン・ポリプロピレンが世に出たのです。触媒の発見はSerendipityですが,それに至る過程は,基礎研究そのものです。この有機金属触媒の発見は高分子重合化学の発展を促進するとともに,有機金属化学の重要性,有用性を確立しました。

 学術的に重要なフェロセンの発見も偶然ですが,この時期に重なります。二つの重大な発見が契機になって有機金属化学は急速に進歩したのです。

 上述のように日本では1950年代の初め頃まで『有機金属化学』という学問は未発達で,大学で学ぶことが出来なかったのです。興味深いことに,多少の前後はありますが,この時代に大学で化学教育を受けた二人の研究者,白川英樹氏と野依良治氏が去年より続いてノーベル賞の栄誉に輝いたのです。ご存知の通り,お二人の研究は,いずれも有機金属化学に関するもので,野依氏は触媒的不斉合成で,白川氏はチーグラー型触媒によるポリアセチレンの合成で受賞されました。

 今回のノーベル化学賞で,興味深いことは米国化学企業モンサント社の研究者William Knowles博士が同時受賞者に含まれていることです。もう随分前になりましたが,クラウンエーテルの化学がノーベル化学賞の受賞対象になった時も,クラム教授(米),レーン教授(仏)と共に米国化学企業デュポン社の研究者Charles John Pedersen博士が同時受賞しています。日本の化学企業からも遠からずノーベル化学賞の受賞者が出ることでしょう。そのためには企業の化学研究者の意欲と研究者が自由な発想に基づいて研究出来ることが必要でしょう。この点では日本の化学企業は米国の企業に学ぶことが多いと思います。

 OMCOS化学はまだまだ研究の宝庫かもしれません。若い研究者の方は安易な研究に走らず,野心的にお二人のノーベル賞化学者に続いてほしいと思っています。

(2001年11月16日受理)
ページ更新日
2011年11月7日