公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

現状のままで満足ですか年輩者:今や集学的に“熟学”事始めの時
長尾 善光


 教育関係機関や企業において大先輩ともなると,私も含めて学生や若者を叱咤激励したり鼓舞したがるものである。ある程度できあがった(年を経た)人物から若者を眺めるとどうも物足りなさを感じるのも事実だろうが,その人自身も若い頃には今時の若者と同じであったかも知れない。今どきの若者に不満足だというフレーズは,古代文字のなかにも記されているようで,太古の時代から歴史的に繰り返されている年輩者の決まり文句であったらしい。このように,若者への提言はいたるところで拝見,拝聴するが,本文では自分白身も含めた年輩者達に話しかけたい。

 余計なお世話かも知れないが,私はあえて問いたい。世の年輩者達(大学の教授,企業の重役職者,研究機関のシニアリサーチャーなど)よ、現状に満足しておりますか,それとも組織機構や社会の仕組みや慣習からの諦観で自分の将来活動にすでに見切りをつけているのですか,新進気鋭の若者に言葉や文言だけの(もちろん本心からのも含めた)期待感を年輩者の美学?として示すだけで満足していてよいのですか。年輩者は時とともにただ消え去る者でよいのでしょうか。21世紀は長寿社会であり,誰でもが遭遇するこの重要な問題を老若男女皆で考えようではありませんか。今社会では,若者は将来の可能性人なので有能な若者達への先行投資が推奨されており,年輩者のための投資は年齢的に無駄であるとされている。その潮流を私も一般概念としては享受しているが,一方では一部の若者達への無駄な投資(または高い地位)があることも否めない事実である。社会は,有能な年輩者への積極的な投資と優遇をもっと推進すべきである。20世紀後半には,組織維持のために組織代表という名のもとに年輩者によって若者達の業績を搾取するという行為があったので,一将功なりて万骨枯れるという現象などから脱皮するための方策のあらわれとして,また若者の自立を早期に図るためなどへの現行の若者推奨策とも思える。しかし,今や我々の周囲すべてにおいて,透明性とアカウンタビリティーが求められている時に時代錯誤的な年輩者による上記のような業績搾取は,言語道断な老害行為の何ものでもないことを現在の賢明な年輩者達は認識している。

 それでは,60歳前後の年輩者達は若者推奨の時代にあっていかに生きるべきか(宗教家は,生かされているというが・・・)である。大脳の右脳機能は,感性,想像,創意工夫等の創造力に関係し,子供の時からの鍛練が肝要でありその生理機能は年齢に関係ないようである。優秀で若くても右脳のダメなやつはダメである。他方左脳の機能は,情報の収集(インプット),記憶(メモリー),回答(アウトプット)等に関係し,左脳の生理機能は年齢が高くなるにつれて誰でも衰えてくる。そこで,左脳機能の役目はコンピュータか優れた左脳を持つ若者に任せておけばよく,発想豊かな年輩者は自らの経験とコンピュータ科学(バイオ・ファーマコ・ケミカル・ドラッグetc.)情報等を十分に活用し,もっぱら右脳を駆使して新企画や創案を機軸とする独自の新分野を間断無く構築すべきであると思う。それには,個人のみにこだわらずに,それぞれの分野でスペシャリストとしても有能であり,ロマンと強力なモチベーションを持った年輩者達が既成の組織を越えて“戦略集団”を構築して集学的に機能するほうが効率的である。これは成熟した思考に基づく新たなる学問(研究)分野開拓への挑戦であり,真に“熟学(造語)”事始めである。過去の達成感に満足したり,余生を異なる分野で楽しむことも人それぞれの人生観であり大いに結構である。しかし,現在リーダシップを懸命にとっている年輩者達よ,形而下の“席”をやがては若者に譲るであろうが,有能な若者達と正々堂々と切磋琢磨しつつ,間断無く自身を進化させて次の新機軸と新分野(“席”)を構築しようではありませんか。

(2003年1月5日受理)
ページ更新日
2011年11月7日