公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

きっかけが興味を沸き立たせ、将来の化学発展の礎をつくる
木原 則昭


 「触媒は社会の持続的発展のキーテクノロジーである」というキャッチフレーズで一民間企業主催の触媒科学国際シンポジウムが昨年3月に開催された。このシンポジウムは組織,民族の壁を越えて世界から触媒研究者が集い,研究者の交流と議論の場を提僕するという新しい産学連携のきっかけをつくることを目的とした。ノーベル賞受賞者2人と世界を代表する第一線研究者の講演を聴いて,参加者の多くは新しい刺激を受けたのではないか。

 参加者の1人に詰襟の学生服を着た若者がいた。聞いてみると高校1年生で静岡からわざわざ千葉まで来たということである。参加の理由は,父からこのシンポジウムの話を聞いたのがきっかけだという。正直なところ内容は難しくて理解しがたいところが多かったようだが,将来理学関係の大学に行き勉強したいということだった。この体験をきっかけに化学を志す若者が1人増える可能性があることは重要なことである。化学にアプローチする多くのきっかけを若い時代(中学,高校)に与えていくことが,化学離れを食い止める重要な方策になると思う。

 翻って,自分に当てはめて考えてみるに,なぜ自分が化学に興味を持ち,専攻し,職業にしたのか。中学校,高校と化学は嫌いだったという人が多いのではないか。自分もそのひとりである。計算して答えが論理的に出てくる数学,物理に比べて,中学,高校の化学では理屈なしで覚えなければならないことが多い。元素記号を覚えるところでいやになり,化学反応式で追い討ちをかけられる。なぜ,このような化学反応式が書かれるのか分からないため,覚えてその場をしのいで窮地を脱しようとした。高校時代にふとしたきっかけでそのいやな化学に興味を持つようになった。それはカローザスのナイロン発見のきっかけから伸びる化学繊維を完成させた経過を書いた記事であった。発見者のカローザスの運命的な話だったと記憶している。化学に興味をもったもう1つのきっかけは,ボアーの原子模型で原子核の周りの複数の軌道上を電子が回っている図である。高校時代に分子は原子の集合したものであると習ったが,どうして原子同士で結合が出来たり,結合が切れたりするのであろうという疑問が頭の中から離れなかったことである。「夢の繊維」,「不可解な疑問」が大学で化学を専攻しようとしたきっかけである。

 私が勤める研究所の研究者にも化学専攻した動機なり,きっかけなりを聞いてみた。聞いた全員(20数人)にきっかけとなる明解な理由があったのに驚いた。何となしにという人は皆無である。また,いつ頃興味を持ち始めたかという問いかけに,ほとんど中学,高校時代である。きっかけの中で多かったのが,「実験の面白さ」と「先生の人となり」である。覚えるだけの基礎作りも中学校,高校の化学教育には必要かもしれないが,実験,電子論的解釈による化学の面白さを数えて化学への入門のきっかけ作りをして欲しいものです。

 将来の化学産業の担い手は,今の中学生なり高校生である。研究での産学協調が叫ばれ,それなりの実績を挙げつつあるが,中学校,高校での教育に対する支援における産学連携は十分だろうか。日本化学会,日本化学工業協会などの産・学四団体主催で行われている「夢・化学-21キャンペーン」はその活動の1つかもしれないが,もっと中学・高校サイドに入った活動が必要でないか。それには,中学校,高校サイドの協力も必要である。産業界,学界がより優秀な化学系人材を求めるなら,中・高校生が化学に興味を持つようなきっかけをつくることが必要である。有機合成化学協会も産学連携してきっかけづくりに貢献して行こうではありませんか。

 国際シンポジウムに参加した1人の高校生からきっかけの重要さを再認識させられた。

(2003年10月21日受理)
ページ更新日
2011年11月7日