公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

法人化元年に思う
斎藤 清機


 国立大学は,間もなく法人化の初年度を迎えようとしている。これを千載一遇の改革の機会と捉えることが当初から重要視され,大学教員も多かれ少なかれその間題に関わってこられたことと思う。筆者もその例外ではなく,大学改革の一助になればと念願しつつ,多くの時間を割いてきた。例えば,内外の大学教育の実体を正確に把握する必要が生まれ,実地見学とインターネットを駆使した調査に加わった。その結果いくつかの意義深い情報に出会うことになった。例えば,スタンフォード大学化学科の新入生は,入学直後の第1クオーター(3カ月)では4科目を履修すること,1クオータド当たり3-4科目のペースは学年が変わっても卒業まで堅持されること,卒業研究は課せられていないこと,4年間で学習する全科目数は,45-46が標準であること,等である。日本では一般的なセメスター別の米国の大学でも,卒業まで(全8セメスター)に学習する科目数は同様で,従って1セメスター当たりでは5-6科目となる。

 我が国は,卒業要件単位数を最低124(62科目に相当)と法律で定めている。卒業研究(10単位)を除けば,履修科目数は3年間(6セメスター)で57科目となる。従って1セメスター当たりの履修科目数は9-10科目であり,単純に計算すれば日本の学生は,入学直後から米国の学生の約2倍の科目を同時に週1回の講義として(90分)履修していることになる。さらに注目すべき相違点は,学習密度の違いである。米国の学生は,1回50分の講義を週3回(月・水・金)受講するのが一般的である。1科目当たりの受講登録者数は,科目の種類によって10数名から400名まであるが,大クラスの場合約30名のセクションに分け,セクション毎にティーチング・アシスタントが割り付けられる(UCLAの例)。それを“ディスカッション・アワー”と称して補講,演習,あるいは質問等の時間に使っている(週1回/50分)。加えて,オフィス・アワー(教員とマン・ツウ・マンで質問)と週末の宿題が加わった形で学習が行われる。実に密度高い学習が実施されている。

 人手した“Stanford Bulletin(2000)”から化学科の履修科目を見てみよう。正確を期するためそのまま英語で示す。略号の意味は,[A]=秋期,[W]=冬期,[S]=春季,である。

1年生:[A]Chemical Principle, Calculus & Linear Equation, Writing, Electives × 2; [W] Structure and Reactivity, Calculus & Linear Equation, Writing, Elective; [S] Monofunctional Compounds, Chemical Separations, Calculus & Linear Equations, Writing and General Education Requirements or Electives; 2年生 : [A] Polyfunctional Compounds, Qualitative Organic Analysis, Physics (Mechanics), Differential Equations; [W] Special Topics in Organic Chemistry, Theory and Practice of Quantitative Chemistry, Physics (Electricity), Electives; [S] Synthesis Laboratory, Physics (Magnetism), Electives; 3年生: [A] Physical Chemistry, Physics (Light and Heat), Electives ×2; [W] Inorganic Chemistry, Physical Chemistry, Physical Chemistry Laboratory, Electives; [S] Inorganic Chemistry, Physical Chemistry, Physical Chemistry Laboratory, Electives ×2; 4年生 : [A] Electives × 3; [W] Electives × 3; [S] Electives × 3。

なお、 Electives は, 選択科目で以下の科目が挙げられている。Writing, General Education, and Language Requirements, Biochem., Biol. Sci., Chem. Engr., Civ. & Envir. Engr., Comp Sci., Econ., English, Engr., Geo. & Envir. Sci., Math., Mat. Sci. & Engr., Physics, Stat.

 1年生で数学,2,3年生で物理が多く,これらを必修科目として数学科と物理学科に出向いて履修する。米国では“学習習慣(Study Habit)”と“熟達した学習方法(Study Skill)”の2つを重視している。一般教育は,我が国の教養科目のように別枠で開講されている科目ではなく,他学部・他学科の低学年向け専門科目を履修する。必修も選択も厳密であり,選択料日の受講によって上記の重要な2つの資質が損なわれることはない。この資質が不十分な学生は,放校処分となり,ランクの低い大学に編入学させられる可能性が高いそうである。このような教育システムの違いを真剣に考え,日本の大学数育を改革する方向を見定める時期が来ていると強く感じるのは私だけであろうか?

(2004年1月7日受理)
ページ更新日
2011年11月7日