公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

IUPACと私の国際貢献
磯部 稔


 IUPACの有機合成国際会議(ICOS-15)が8月1-6日に名古屋で開催される。1982年東京(向山光昭委員長)で開かれてから22年が経過する。この間,有機合成化学は欧米追従型から,日本独自の発展を遂げつつ世界をリードする状況となっている。また日本を含めてアジアは,世界における有機化学学術発信の主要な地域として注目されるようになってきた。このような時期に日本で開催されることの重要性について再認識したい。この間有機合成化学は,様々な金属を用いるクロスカップリング,不斉分子触媒,相間移動触媒・自己構築型ナノケミストリー・応答分子構築型マテリアルケミストリー,創薬化学,これらの手法を組み込んだ全合成,多段階プロセスケミストリー,グリーンケミストリー等々多くの創造的な発展を見せた。ICOS-15の一般発表申込数500件の申し込み分野別内訳数を見ると,約1/3が天然物合成・医薬品合成で,この分野の研究者のすそ野が広いことも特色である。

 筆者は,最近IUPACの役員(Division President of Organic and Biomolecular Chemistry,Div. III)を務めることとなった。本欄を借りてIUPACの活動を紹介してみたい。学生時代にはIUPACとは,「次の化合物のIUPAC名を書け」などという試験問題でおなじみだった。IUPACは,化合物命名法の世界的な統一基準を設け,化学に関する世界的な問題について対応する組織である。これはNGO(Non-Governmental Organization)として1919年に創設され,ICSU(International Council for Science Unions)の一部で,WHO,FAO,UNESCO,OIML,ISOなどに対して化学の問題に関する助言をし,CHEMRAWN(Chemical Research Applied to World Needs)プログラムで多国籍間の課題を取り扱う。中央にはNational Adhering Organizations,CouncilとBureauがあり,その下にStanding CommitteesとDivisionがある(http://www.iupac.org/organ/index.html参照)。Division(部会)は,(1)物理・生物物理,(2)無機化学,(3)有機・生物分子,(4)高分子,(5)分析化学,(6)化学と環境,(7)化学と健康,(8)化学命名と構造標記法の計8部会がある。それぞれの部会は,Titular Members(理事)・Associate Members(評議員)・National Representatives(各国代表)・Provisional Members(暫定委員)で構成され,下部にいくつかのSubcommittee(小委員会)が設けられている。例えば本協会に関連の深い有機合成化学は,Div. IIIのSubcommittee on Organic Synthesisである。

 IUPACでは,冒頭で述べたような各種の国際会議を定期的に主催し,2004年には世界各地で37の化学系会議が開催される。そこから選択された論文がPure and Applied Chemistry誌に掲載されるが,さらにニュースレターとしてChemistry International誌が発行され,webで公開されている。また,時勢に合った必要適切なプロジェクトを提案・選択・予算化して活動をする。私が6年ほど前からかかわった分子基盤の生物多様性に関するプロジェクトの例では,世界各地で意見集約を行った。生物資源国と先進工業国の間で分子資源の潜在的な経済価値を巡って確執があった問題である。生物資源を使用する分子研究を推進するための共同作業についてIUPACの勧告という形でまとめられた[Pure Appl. Chem. 74(4), 697-702, 2002]。この相互協力の考え方が浸透し,実効があがるよう願ってやまない。最近のプロジェクトのひとつに,Green Chemistryという環境負荷の少ない化学工業生産を目指す手法の開発が計られるなど,IUPACでは多くの活発な動きがある。

 これらの活動とは別に,日本とアジア各国における学術活動の有機合成化学の連携も活発化している。世界の中のアジアがより主体的に高い水準を目指して交流する組織であると同時に,発展途上のアジア各国の底上げをも果たすような良い組織ができればと筆者は願っている。その時期も熟しているように感じているのだが。次の世代が,広い世界観で学術交流・人物交流をするなかで重要な国際貢献を果たし,学術の伸展を図って行くよう願って,筆者の狭い経験の一部を紹介した。

(2004年5月11日受理)
ページ更新日
2011年11月7日