公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

国立大学法人化とかの国の大学
中山 重蔵


 国立大学が法人化され平成16年4月から国立大学法人となった。大学や学長の裁量が拡大したとされる一方で,大学の収入は授業料収入などと文部科学省次第の運営費交付金とに限定され,実質的に大きな目減りである。収入の約80%が人件費に消えるのは,筆者の所属する大学に限らないだろう。残り20%の多くが建物の維持管理,インフラ整備などに充当されるから,教員個々が使える研究費は,従来よりはるかに少なくなる。より多く研究費を捻出しようとすれば,無駄を省くしかない。しかし,このことは,光熱水量費節減のための研究制限(土日や夜間の研究制限)や人件費節減のための新規人事の凍結(空きポストの増加)などにつながりかねず,大学の根源的な使命である「教育と研究」が危うくなる。今日,どの大学でも「戦略」やら「外部資金」なる言葉が闊歩し,これまで一笑にも価しなかったことが真剣に議論されている。大学は,「社会の要請に応える」場であることは無論のこと,「基礎的な学問を守り育てる」場でもなければならない。現状では,明日の糧より今日の糧が重要で,研究の方向が前者にのみ向けられ,外部資金獲得のための戦略とそのための申請書の作成が最優先してしまう。大学における「個々の教員と研究の多様性」をどうしたら存続させることができるであろうか。

 こんなことを考えながら,今夏,マドリード大学のRuano教授を議長とする第21回の有機硫黄化学の国際会議(ISOCS-XXI)に参加した。同大学の理工系の講堂と教室が会議場に利用された。整備の行き届いた立派な会場であったが,移転して間もない郊外の緑豊かな高台のキャンパスは,広大でゆったりとしていた。マドリード市内も,3月の列車爆破テロの後遺症を感じさせないほど,観光客のみならず市民もゆったりと過ごしている雰囲気があった。外見には,GDP(国内総生産)の多寡では計りきれない豊かさを感じた。

 会議中の国際組織委員会で次回のホスト国に日本が指名され,筆者が議長の大役を仰せつかった。本会議は,16回大会まで伝統的に欧州各国の持ち回りで行われてきたが,1996年に初めて海を渡り,岡崎廉治教授を議長として日本で開催された。会議の席上,宿泊の便,つまり発展途上国の研究者や若い研究者・院生のための安価な宿舎(ドミトリー)が利用できるかが問題となった。それ相当の宿泊施設をお世話する(努力をする)と回答することでその場は過ぎたが,多数の人が宿泊できる施設をもつことは,現況下の国立大学法人には至難であり,文部科学省に課された重要問題である。

 会議の帰途,ミュンヘン大学のHuisgen教授を訪問し,そこで講演をさせていただいた。また,同大学を訪問中のSchleyer教授とも議論する機会を得た。同大学の化学系は,市内中心部から郊外に移転した。その規模はミュンスター大学につぐが,建物の大きさは,筆者の大学の理と工の二学部を合わせたよりも大きそうである。ドイツでも,少数の大学の統合や統合計画の話を聞くが,東西ドイツ統合の難事業を行いつつ,大型予算を科学技術の振興に投資するふところの探さと先見の明には感嘆するしかない。

 GDPからみた日本の高等教育への支出比は欧米の約半分である。大学人個々が,この現実を見据え,一部の行き過ぎた在り方の揺り戻しを待つばかりでなく,日本の「大学の在り方,基礎研究の在り方」を憂慮し,その将来と真剣に対峙すべきは今をおいてなかろう。

(2004年7月20日受理)
ページ更新日
2011年11月7日