公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

一企業人からの大学への要望と期待
大橋 武久


 大学院を出て,外国でポストドク,ついで化学企業で約30年研究開発に従事し,最近は大学院大学で就職指 導教官にも従事している経験からの提言を述べさせていただく。

 現在,大学の理工系では,学術的基礎研究に加えて目的的基礎研究の成果発現が要求されている。私が企業に入社した当時(1973年)は,企業での,中央または基礎研究ブームであり,自前でのシーズからの製品化が目指されていた。その後,1990年代オイルショックもあり,研究開発費の急増もあり,研究開発の効率化もあり,アウトソーシングの活用や各種技術の融合による製品化に研究開発戦略が変換されてきた。

 アウトソーシングの一つとして,大学との共同研究や委託研究が,大学の独立法人化もあり,盛んである昨今である。大学での知の創造が企業のニーズに上手くマッチすれば結構なことであるが,企業のニーズにタイミングよく応えるために,創造的なシーズをベースとするのではなく,保有技術,既存技術の組み合わせでニーズに適合させるアウトプットでよしとするなら,産学の真の協業とは言えない。大学での研究は目的的基礎研究においても,創造的でオリジナルなシーズ発掘が基盤である。また,各種技術の融合による製品化は,情報電子材料,医農薬,機能性食品などの分野で有機合成化学も含め,業際領域での展開が必要であるが,ベースとなる各技術のオリジナリティーが基盤となって成果が期待できるものである。大学での研究成果は,知の創造が根本にあり,それをベースに産業の発展および社会への寄与に貢献できるものであるべきで,知の創造の成果は広く,汎用的に社会で活用されるべきであろう。それゆえに大学での基本特許権は保護されるべきであるが,企業サイドは,基本特許の独占ではなく,基本技術から派生しえる種々の応用特許の構築で付加価値の高い製品の発現に邁進することが望ましい。大企業と大学との包括的共同研究などが実施されているが,大学発の創造的基本技術の知的財産の囲い込みに終わらないように望みたい。

 上記の高機能性,高付加価値製品の創造に有機合成化学の寄与は期待されるが,さらに地球環境保全への寄与も大事である。グリーンサステイナブルケミストリーの振興が推進されていて,有機合成化学およびバイオテクノロジーによる省資源,省エネルギー型の新プロセス開発に合成触媒や酵素の改良が期待されているし,炭酸ガス等の有効利用にも触媒技術の改変が望まれる。また難分解性化合物の分解も同様である。これらにおいて,触媒や酵素の高機能化とともに,安全性ヤアウトプットの製品のリサイクル性にも考慮しての研究開発が必要である。合成触媒の酵素類似機能性付与へのデザイン化や,酵素の低分子化による高機能化や安定化等が学際領域で,学で,シーズ技術として大いに開拓されていくことが望まれるし,産学の技術連携の期待目標である。

 科学技術立国推進には,人材教育の中身の改変も必要であろう。大学院博士課程の教育には,博士課程修了後またはボスドク経験後,企業で活躍を希望する人材のために,硯在の教育内容よりも幅広い分野をカバーする教育や企業でのインターンシップ経験等をカリキュラムに含める等の施策が望まれる。これらは,企業での自己実現構築に役に立つし,大学発ベンチャーを創立する人材の育成にも寄与できると考える。

 終わりに,企業で期待する人材像を列記して拙稿を終える。

 誇りを持ち技術を向上させる技術者,倫理感の強い技術者,専門知識,スキルを進歩に応じ吸収,活用する向上心と専門外の知識,技術にも関心を持つ好寄心を有する技術者などが期待される。

(2007年11月16日受理)
ページ更新日
2011年10月25日