公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

進化する有機機能材料
城田 靖彦


 有機材科は,無機材料と比べて,軽量,優れた成型加工性,柔軟性,安価,分子設計の容易さなどの利点をもっている。構造材料としての有機高分子は,プラスチック,ゴム,繊維などとして暮らしと産業に確固たる位置を占め,高性能材料へと進化した。有機機能材料についても長年にわたって研究開発が行われてきた。表示用液晶材料,電子写真用有機感光体材料,印刷製版用光重合系,半導体素子製造用高分子レジスト材料などは,実用化されている有機機能材料の代表的な例である。

 最近,有機電界効果トランジスター,有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子,有機太陽電池等の有機エレクトロニクス・オプトエレクトロニクスデバイスが注目を集めている。これは,これまでの無機半導体を用いたデバイスに代わって,有機材料のもつ一般的な特徴を生かしたフレキシブルで大面積の薄膜デバイスや無機材料を用いたデバイスにはない特徴をもったデバイスの開発を目指す新しい流れである。  このような工学的応用を背景として,学術面では,化学,物理学,生物学の融合による機能分子・物質化学,機能材料科学,デバイス物理学を包含した学際的領域の新しい学問分野が拓けている。今から約20年前に米,独,英国で創刊されたChem. Mater., Adv. Mater., J. Mater. Chem.等の学術雑誌は,いずれもインパクトファクターの大きい論文誌として高い評価を得ている。

 有機エレクトロニクスデバイスに用いられる有機材料は,しばしば有機半導体と呼ばれているが,無機半導体とは異なって,通常,電気絶縁性物質である。また,無機半導体のようなエネルギーバンド構造をとらない場合が多い。用いられる材料は,一般に,π電子系物質であり,低分子,構造を制御したオリゴマー,および高分子に大別される。低分子系物質には,色素,分子システム,超分子を含む各種のπ電子系,π電子系高分子には,π共役系高分子とπ電子系を含む側鎖型高分子がある。構造を制御したπ共役系オリゴマーは,π共役系高分子のモデルとなるとともに,共役鎖長を変化させることによる物性・機能の制御が可能な新しいπ電子系分子群である。これらのπ電子系分子・物質群は,電荷移動錯体形成,ドーピングあるいは光吸収により荷電担体(正孔,電子)を生成し,かつ,生じた荷電担体を輸送する能力を有しており,その結果,電気を流すようになる。その他,紫外から近赤外領域の光吸収・発光,大きな非線形光学効果などの特性を有している。1940年代後半から始まった有機物質の電気伝導性に関する研究は,有機半導体から有機導体への研究へと発展し,一方では,有機半導体が,前述の各種デバイスにおける電荷輸送材料,光電変換材料,発光材料などとして広く用いられるようになり,有機ELテレビが上市されるに至った。

 分子の独立性と弱い分子間相互作用で特徴づけられる有機物質は,適切な分子設計により,目指す物性・機能の発現を可能にする。物質のモルフォロジーならびに物質形態の次元性の制御は,学術面のみならず工学的応用においても重要な課題である。有機低分子化合物は,通常,固相では結晶として存在するが,室温以上で安定なアモルファスガラスを容易に形成する低分子系有機物質(アモルファス分子材料)の創製に関する系統的な研究が1980年代後半から始まり,現在では,適切な分子設計をすれば,多様な分子構造をもつアモルファス分子材料を創出することができるようになり,アモルファス分子材料は,結晶,液晶と並ぶ普遍的な機能材科群として広く認められるようになった。

 次元性の制御は,ナノ構造体を対象とするナノサイエンス・ナノテクノロジーへと展開している。トップダウン型と呼ばれる半導体素子作製用リソグラフィにおいては,これまでより高精度のパターン寸法が要求され,従来の高分子材料に代わってアモルファス分子材料を用いる研究開発が進んでいる。分子を組織化するボトムアップ法では,ナノ結晶,ナノ粒子,ナノ薄膜,ナノチューブ等の作製と各種デバイス材料への応用が研究されている。

 分子設計からデバイス開発を含む学際領域の研究においては,根底にある原理の深い理解と考察の上に立って問題点を抽出し,発展の方向を探ることが重要である。有機機能材科のさらなる進化とこの分野の飛躍的発展を期待したい。

(2008年1月25日受理)
ページ更新日
2011年10月25日