公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

若い世代について感ずるままに
西山 繁


 今年は,物理と化学のノーベル賞の受賞ラッシュに沸いている。特に,オワンクラゲの発光物質に関する研究による下村脩博士の化学賞のご受賞は,天然物化学分野の末席に連なる筆者にとって喜ばしいかぎりであり,ノーベル賞効果で有機化学系配属を希望する学生が増加するのではと皮算用に忙しいところである。この慶事を予言するかのように,本学の上村大輔教授が2008年1月号の巻頭言で名古屋大学平田研究室の逸材のお一人として下村博士のことに触れられておられた。筆者も山村庄亮本学名誉教授より平田研究室の活発な研究状況を毎日のように聞かされていたが,逸材がきら星のように相集い,るつぼのような熱気の中から先進的な研究成果がぞくぞくと生まれてきた研究環境を羨ましく感ずる。大学の研究室のアクティビティーは,いかに学生にインセンティブを与えることができるかにつきる。かつては研究テーマの面白さに魅入られた学生が何人も集まってくれたが,最近の学生はそれだけでは研究室配属の希望を出さなくなった。一方で,近年理系離れの問題が諸方で懸念されているが,かつては理工系学生の予備軍である科学少年・科学少女にとって不思議な現象を見せてくれる自然は身近なものであり,生命の尊さに自ずから触れることができたように思われる。ところが,現代ではあまりにもヒステリックに安全を意識するあまり本当の危険がどのようなものか知らずに成長するため,近年増加しつつある残忍な犯罪の要因の一つとなっている気がしてならない。また,大学入学についても様々な入口があり,多様性に富んだ学生が集まる反面,理系学部にあまりに理系らしくない学生が増加しているように思われる。もちろん,彼らも良く勉強するとともに真面目な学生が多い。ただ,彼らは就職の方向性に合わせて研究室を選ぶようである。良い仕事を手際よく完成させて評価の高い学術雑誌に論文を出して,一流企業に就職する人生設計があるように感ずる。もちろん彼らを非難するつもりは毛頭無いし,目的達成のために注ぐ集中力には敬意を表したい。

 彼らの出した成果を持って,先日ある国際学会に参加した。いずれの会場でも多くの日本人研究者の発表があり,世界の最先端を行く日本の化学について誇らしい気分になる。特に,若い大学院生の発表はマイク裁きの手際よさ,パワーポイントの表現力など実に堂々としており,筆者らの学生時代とは隔世の感がある。ただ,惜しむらくは折角異国の地に来ているのに常に仲間同士で集団行動し,どこへ行っても一目瞭然に我が同胞と知れることである。一方,筆者の参加した部会で一人の米国の若者が終始一番前に陣取り活発に発言していたのが印象的であった。当初どこかの若手教員と思っていたが,実は大学院生であった。このようなことは珍しいことではなく,大小を問わずどこの学会でも英語圏出身か否かにかかわらず,非常に積極的な若手外国人の参加者を見出すことができる。質問の内容は筆者が理解する限りそう高度なものではないが,逆に彼らの学問に対する情熱を感ずる。ここまで書いてくると現代の若者批判と考えられても仕方がないが,実のところ日本の若者に頑張って欲しいと熱烈に思っているのである。日本語と同様に日本人の気質も時代と共に変化して当然であるが,現在の国内外の情勢の影響か,あまりにも将来の安全性・確実性を求めるため人間として小さくまとまる傾向にあるようである。できるならば,高学歴者ほど海外を見て,体験して欲しいと思っている。現在,海外へ容易に行くことができるが観光地を通過する旅行者としてでは無く,たとえ短期間でも生活の場を外国人と共にして欲しいと思っている。その国の言語をしゃべらなければ,生活が成り立たない状況に身を置いて彼らが何を考え,どのように行動するのか,全身で感じて欲しいと切に思っている。外国人にとって,言葉(例えば英語)は当たり前の意思の伝達手段であり,単に言葉を巧みに話せるだけでは意味が無く,その奥に何を持っているのかが人間としての判断基準である。本協会に属する学生諸氏ならば,何にも代え難い「ものづくり」の技術を持っているはずで何ら臆する必要はない。さらに願わくは,その場においては一人一人が日本の代表者であり,化学に加えて日本をアピールできるだけの「教養」を兼ね備えて欲しいと切に願ってやまない。

(2008年11月10日受理)
ページ更新日
2011年10月24日