公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

CMC研究
中村 耕治


 最近,あらゆるジャンルで略語が頻繁に使用されている。しかし,万国もしくは国内で共通の略語もあれば,ある分野でしか通用しない特有の略語も多い。私の職場でも,CMC,GXP (GMP,GLP,GCP 等),CTD,DMF,IND,NDA といったような様々な略語がごく当たり前のように使用されている。製薬会社に籍を置くものであれば,日頃から耳にする業界略語ではあるが,それぞれの意味をきちんと説明できる人はそう多くはいない。

 たとえば,合成化学研究者がよく使用するDMFは何を意味するのか,皆さんおわかりだろうか。本誌読者の多くの方や製薬会社のメディシナルケミストの回答は,ジメチルホルムアミドであるが,製薬会社のプロセスケミストの回答は,ジメチルホルムアミドであったり,ドラッグマスターファイルであったりする。 では,私の所属するCMC研究センターの「CMC」とは何の略か。最近でこそ,製薬企業の一部で,「CMC」を名称に取り入れた組織を見受けるようになってきたが,「CMC」という用語は,まだまだなじみの薄い言葉ではなかろうか。

 「CMC」とは,Chemistry, Manufacturing and Controlの略称であり,訳せば医薬品の原薬(有効成分)・製剤の化学・製造およびその分析(品質管理)ということである。つまり,CMC研究とは原薬の製造法および製剤の開発研究,そして原薬および製剤の品質を評価する分析研究を担当する3つの部署が連携をとりつつ,医薬品の研究開発を行うということである。一言でいえば「モノづくり(製品化)」に関わる医薬品の研究開発である。その範囲は,創薬段階後期の研究から臨床開発を経て,製品の生産,生産後の改良までと多岐にわたっている。製薬企業の研究開発については,新規な構造あるいは薬理作用を有した化合物の創製に注目が集まりがちではあるが,新規の化合物を医薬品に仕立て上げ,高品質な製品として世の中に提供することも製薬企業の重要な使命である。そうした「モノづくり(製品化)」の実現において,CMCはその根幹を担っているといえる。CMCがその責務を果たさなければ企業としては高品質な医薬品を患者さんのもとへ届けることができず,社会的にも大きな問題を引き起こしてしまうのである。

 CMCの出発点は医薬品の有効成分,いわゆる原薬の環境にやさしい効率的製造法開発とその実用化である。抗体医薬品をはじめとしたバイオ医薬品の登場が,華々しく取り上げられてはいるが,現状では,原薬は有機合成品がその大部分を占めており,製造のためのプロセス開発においては,有機合成化学の発展が大きく寄与してきた。ご承知のとおり,有機合成化学における,これまでの日本の貢献は非常に大きなものがある。特に,不斉合成反応を始めとし,遷移金属触媒によるクロスカップリングや有機触媒による高選択的な反応の開発とその応用展開においては,多くの産学の研究者の努力が実を結んでおり,まさに日本のお家芸といえるこれらの分野が,今の効率的な医薬品の製造を可能としてきたと言っても過言ではない。一方,従来の概念にとらわれない新たな手法の開発も重要と考えるが,効率化可能な反応系の開発(例えば保護基省略)は,医薬の合成においても大きな利点があり,ひいては,実際の医薬品原薬製造で大きな効率化に繋がる。こうした視点を取り入れて合成を考えることは大切である。

 現在の世界的な技術競争の中,日本は付加価値の高い「モノづくり」で勝ち残っていくしか道はないと考えられる。今後も,有機合成化学協会が中心となり,前述した日本のお家芸を発展させるとともに,従来にない概念も生み出して,日本の有機合成化学の力量を,さらに向上させることを期待するものである。

 最後に,私自身が日頃所属員に話しているもう一つのCMCを紹介させていただく。Creative, Motivated Corps(創造的で意気軒昂なCMC研究専門集団)。これは略語というより,一種のスローガンといったほうがいいかもしれないが,とても重要なもう一つの「CMC」である。少し専門的な話になってしまったかもしれないが,皆さんにCMC研究の一端を少しでも理解していただけたら幸いである。

(2009年9月14日受理)
ページ更新日
2011年10月24日