公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

日本はヨウ素資源大国!ご存知でしたか?
石川 勉


 2010年は,日本の化学にとって誠に意義深く喜ばしい年であった。7月に日本で開催された化学オリンピックで,日本代表4名のうち2名が金メダルそして残る2名も銀メダルという,参加者全員が銀メダル以上を獲得するという輝かしい記録を打ち立てた。また,10月には北海道大学名誉教授鈴木章先生とパデュー大学特待教授根岸英一先生がクロスカップリングでノーベル化学賞を受賞され,日本中でその快挙を称えたことは記憶に新しい。特にノーベル賞受賞では,有機合成化学協会に深く関わる先生方が頻繁にメディアに登場し,両先生のご業績を平易に解説することで,日本の化学の実力が世界のトップクラスにあることを紹介するとともに,化学の素晴らしさを伝え,実は化学が身近で馴染み深いものであることを,一般の方にアピールする絶好の機会となった。今後,化学をさらに発展させていくためには,より積極的に機会をとらえてメディアを活用する努力は,ますます重要となろう。

 一方で,中国によるレアアースの輸出制限という,限りある地球資源問題もクローズアップされた。資源といえば,昨年,名古屋で開催された国連による生物多様性に関する国際会議(COP-10)では,生物資源にも注目が集まった。日本は,生物多様性が豊富だが,こと鉱物等の非生物資源の多様性は極めて乏しい。21世紀は環境・資源を視野に入れた取り組みは必至であり,化学分野においてもこれまで以上に省資源,高効率性を伴う循環型反応(システム)等の開発に鎬を削る必要があろう。

 ところで,会員諸氏は日本がヨウ素において資源大国であることをご存知だろうか? 世界のヨウ素生産はチリが5-6割(チリ硝石が原料),日本が3-4割(地下かん水:古代海水が原料)と,ほぼ両国で9割方の供給をまかなっている。この非生物資源の乏しい日本にあって,このようにヨウ素は希少で特異な資源である。中でも,千葉県は日本第1位の生産量を誇り,この極めて重要な資源であるヨウ素を機軸とした産業や研究を大いに発展させるべく,産学官が連携して「ヨウ素利用研究会」を立ち上げ,現在はさらに「ヨウ素学会」へと発展させ,毎年秋に千葉大学で全国レベルの「ヨウ素シンポジウム」を開催するなど,活発に活動を展開している。今後は,この貴重なヨウ素資源をより有効に活用していく方策や算段を,日本は国策として展開して行く必要があるのではなかろうか?

 本年(2011年)は,国連による世界化学年(International Year of Chemistry)で,マリー・キューリーが100年前にノーベル化学賞を受賞したことを記念する年でもあるが,竒しくも1811年にフランスで海藻の焼却灰からヨウ素が発見されてから200年目にあたる。ヨウ素は発見以来,化学だけでなく,医学,電気・電子,地球科学など幅広い分野で利用・研究されてきている。有機化学の分野では,日本はすでに超原子価ヨウ素研究でオリジナリティある研究を展開し,世界をリードしている。ご存知のように,ヨウ素は原子価数やイオン的性質において,変幻自在に振舞う。特に有機合成化学はポテンシャルが高い学問で,無限の可能性を秘めており,ヨウ素の特性をさらに研究することで,未知のベールが新しくはがされるかも知れない。

 最近の若い方の化学実験に対する積極性や貪欲性が多少低下しているように思われ,危惧することがないではないが,一方で,寝食忘れて実験に没頭する心強い方も多少ならずとも居られると聞く。トレンディで比較的新しい反応様式の発見につながりうる希少金属触媒を用いた研究が花盛りであるが,彼らの中に,この日本が誇る資源であるヨウ素に注目した画期的な研究を展開する方が現れることを期待する。そして,ハードルは高いかもしれないが,将来ノーベル化学賞受賞という朗報が届くことを夢見ている。

(2010年11月24日受理)
ページ更新日
2011年10月25日