公益社団法人有機合成化学協会 SSOCJ - The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan

豊かな明日を創る有機合成

巻頭言

公益法人化と社会への発信
橋本 俊彦


 有機合成化学協会が公益社団法人となり,また創立70 周年を迎え,本会にとって記念すべき2012 年に事務局を去ることとなった。6 年半前にそれまで勤めていた製薬会社を離れ,何もわからずに本会事務局に赴任した頃を思い起こすと,この間に非常に貴重な体験をしたことが思い出され,感慨もひとしおである。と同時に,常に日常業務に追われ,本当になすべき大事なことをなさずに去ることになったと悔いも残る。

 有機合成化学協会とは何かと人に聞かれたら,「有機合成化学に携わる学界・企業の研究者の応援団です」と答えることにしている。協会の三大事業である編集・出版事業,研究会事業,表彰事業はすべて会員の研究を激励し支援するための活動であり,学界・業界の先生方の献身的な努力とボランティア活動によって支えられている。創立の1942 年以来,このような活動を積み上げ,現在は5,400 人の会員からなる学術団体となり,本年,創立70 周年を迎え,9 月には記念行事,講演会が静岡で予定されている。事務局がある化学会館の1 階ロビーには7 名の日本人ノーベル化学賞受賞者の名が刻まれているが,その内の3 名が有機合成化学に深く関わり,本会の名誉会員でもある。そこを通るたびに,誇りと喜びを感じる会員諸氏も多いことかと思う。そして何よりも誇らしく思うのは,ノーベル化学賞受賞者に匹敵するような画期的な業績を持つ研究者が会員の中にもたくさんいることではないだろうか。

 有機合成化学協会は本年1 月4 日に公益社団法人の設立登記を行い,衣替えを行った。これまで明治時代の民法で規定されていた社団法人は,110 年ぶりの法令改正により一般社団法人か公益社団法人かの選択を迫られ,本会は学術の振興を目的とした後者への道を選び,昨年12 月に内閣総理大臣より公益社団法人の認定を受けた。認定のためには新しい法令にそって定款や会計制度の変更が必要であったが,理事会の先生方(特に元公益法人化推進委員長の森本繁夫氏)から多大のご支援をいただき準備することができた。

 ところで,新しく加わった「公益」という2 文字に会員の皆様は何を感じているであろうか。内閣府の公益認定等委員会では各種団体を審査する前に,「公益の定義」について数十回会議を開いて議論し,その結果,公益事業の認定要件では「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」と規定している。総論としては理解できるが,具体的に有機合成化学協会の公益性とは何であろうか。研究者は化学の研究により知的好奇心を満たし,あるいは企業の収益に繋がるが,社会一般人(不特定かつ多数)の利益とは何であろうか(ここでいう社会一般人とは有機合成化学の専門家以外の人を指し,他分野の研究者・専門家も含む)。

 化学の研究者・関係者の多くは,化学やその技術から生まれた製品は,人々の生活を豊かにすると考えているのに対し,社会一般では化学に対しネガティブな印象を持っている方が結構多い。現代文明社会では人々はどっぷりと科学技術の恩恵に浸った生活をしているにもかかわらず,科学技術一般に対し不信感を持っている方が多いのは何故であろうか。背中が一番こわいといわれるように,人は自身に見えないものが一番恐ろしく,科学(化学)・技術に関する情報を専門家ほど持たない社会一般の人々が不安を抱くのは当然のことかもしれない。公益性を論じるならば,まずはこちらから社会へ情報を発信し,情報を共有しなければならない。リスクはあってもベネフィットがそれを上回ることを伝え,社会と合意しなければならない。言うは易く,実行となると大変な壁があることも事実で,専門用語や化学構造式を使ってはまずは伝わらない。それでも科学が細分化され進化する中,この努力は必要不可欠でありサイエンスライターや科学ジャーナリストの役割は増すばかりである。人々の科学(化学)リテラシーが次第に高まればコミュニケーションもよくなるはずである。有機合成化学協会からも化学の有用性について,そのリスクも含めホームページ等から発信すべきとつくづく感じる。

 末尾となりますが,協会事務局は少人数ですが会員支援のための後方部隊であり,会員の皆様の研究の発展を願い,日夜地味な努力を続けていることを付け加えます。




(2012 年2 月7 日受理)
ページ更新日
2012年4月23日