・小倉 克之氏(千葉大学工学部) /「ヘテロ原子の特性を活用した有機合成」  
  ・西郷 和彦氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科)/「光学分割機構の解明と非天然型不斉補助剤開発への応用」  




 

小倉 克之氏 (千葉大学工学部)

業績)「ヘテロ原子の特性を活用した有機合成」

 
 
 


  小倉氏は、ヘテロ原子、とくに硫黄原子と窒素原子の特性に着目し、新反応および新分子の発見を基盤に、分子の自己集合や自己組織化をも組み込んだ有機合成を展開、独創的な有機合成分野を形成した。

1. 新しい合成試薬の開発とそれを利用する有機合成反応
 これまでに硫黄原子の特性を活用した多くの試薬を生み出しているが、FAMSO(Formaldehyde Dimtheyl Dithioacetal S-Oxide)とMT-スルホン(Methylthiomethyl p-Tolyl Sulfone)をその代表として上げることができる。FAMSOは新規化合物であり、ホルムアルデヒドとメタンチオールからの高効率製造プロセスの開発によって工業的に生産された。FAMSOを利用して、アルデヒド、α-ケト酸、α-アミノ酸誘導体などの数多くの有用化合物が合成できることを明らかにした。中でも、芳香族アルデヒドからの芳香族基置換酢酸エステル合成法は簡単な条件で実施できるので、チエニル酢酸やフェナック抗炎症鎮痛薬などの工業的製造法として利用された。さらに、他の多くの研究者によってもこの試薬を利用する合成反応が研究され、「FAMSOの化学」というひとつの分野を形成するに至った。
 MT-スルホンの製法に対してもDMSOから”one-pot”で合成できるルートを見いだし、工業的規模の生産を可能にした。この試薬は、アルデヒド、ケトン、エステルなどのカルボニル化合物合成に幅広く利用できる。とくに、簡便な条件でアルキル化が可能であり、また得られたジアルキル化体が容易に酸加水分解をうけることから、鎖状、環状、さらには不飽和なケトン類の合成に威力を発揮する。
 また、MT-スルホンから容易に誘導されるケテンジチオアセタールS,S-ジオキシドについても研究を進めている。ラジカルに対して高い受容能を示すことなどを発見し、ラジカル反応を利用する不斉合成法など、多くの合成反応を開発した。これらの研究がジチオアセタールS,S-ジオキシドの化学を先導したと言える。

2. 自己集合・組織化による分子認識場の構築
 有機合成の研究をより幅広く展開するために、有機分子間に働く弱い相互作用にも注目した有機分子の自己集合・自己組織化についても研究を行っている。(R)-アリールグリシンのジペプチド結晶場および4-ピリジル基を複数個有する配位子とパラジウム錯体とから種々の超分子錯体に関する研究がこれに対応するが、分子認識や自己集合化学分野の画期的な進展をもたらす基礎を築いた。これらの成果はまた、以下の機能材料開発に対する研究の展開に大きく寄与している。

3. 有機合成化学にもとづく機能材料の開発
 MT-スルホンから誘導されるケテンジチオアセタールS,S-ジオキシドやS,S,S’,S’-テトラオキシドの電子受容能に着目した材料開発も研究している。電子供与系と組み合わせることで、二次および三次非線形光学材料、さらに有機EL発光素子材料などの開発研究に展開したが、これらの研究においてもπ電子供与部位として新規な1-アリール-2,5-ピロール系を組み入れている。
 このπ電子供与系にトリシアノエテニル基を導入すると、金属光沢有機結晶が得られることを見いだした。導入する置換基によって金属光沢の色合いが変わる。金色やブロンズ色はもちろんのこと、赤紫や緑の金属光沢色を実現できる。結晶内でのπ電子系の集合様式と金属光沢色の関係を明らかにするとともに、金属光沢薄膜材料へ展開するなどして、金属光沢材料の新分野を開拓した。
以上のように、小倉氏は有機合成を単なる合成にとどめることなく、新分子や新物質の創製、さらには新機能をふくめた材料開発に展開した。これらの一連の研究成果は、有機合成化学に発展に著しい貢献をし、高く評価されている。よって、同氏は有機合成化学協会賞を受ける十分な資格があると認め、ここに選定した次第である。

[略歴]
昭和45年3月 京都大学大学院工学研究科合成化学専攻博士課程 修了
現在 千葉大学工学部 教授

 

 


 

西郷 和彦氏 (東京大学大学院新領域創製科学研究科)

(業績)「光学分割機構の解明と非天然型不斉補助剤開発への応用」

 
 
 


  西郷氏は,キラル有機結晶生成原理の解明に関する研究を基盤として,従来の試行錯誤から脱却した光学分割を実現する指針を提唱し,光学活性化合物の大量調製法の開発について先駆的な研究を活発に展開すると共に非天然型不斉補助剤の開発に大きな成果を挙げている。

1. コングロメレート結晶生成原理の解明
  西郷氏は,光学分割剤を全く必要としない点で魅力的な優先晶出法を適用できるものの偶発的に見出されていたコングロメレート結晶の生成原理を解明し,アミン(酸)のラセミ体をコングロメレート結晶にするには,アキラルな酸(アミン)誘導化剤との塩にすることが有効であり,選択すべき誘導化剤と被分割ラセミ体の長さが相同的であることが好ましいとする「分子長原則」に基づく誘導化剤選択指針を提案した。更に,幾つかのラセミ体とこの指針に従って選択したアキラル誘導化剤との塩を調製し,コングロメレート結晶となることを明らかにすると共に実際に優先晶出法によって光学分割してこの指針の妥当性を実証しており,光学分割の分野に大きなインパクトを与えている。

2. ジアステレオマー塩結晶生成原理の解明
  西郷氏は,これまで試行錯誤に大きく依存していたジアステレオマー塩法における光学分割剤の選択を合理的に行うためにジアステレオマー塩結晶生成原理の解明に関する研究を推進し,被分割ラセミ体と分割剤の長さに関する「分子長原則」,有効なCH-π相互作用の生起に関する「アリール基原則」に基づいた分割剤選択指針を提案し,その妥当性を各種ラセミ体の光学分割で示した。他方,この指針を基盤としたクリスタルエンジニアリングによる光学分割剤の設計に展開し,多くの新しい光学分割剤を開発した。また,指針は各種光学活性試薬・医薬原料などの工業的光学分割に活用されており,実用面でも貢献している。更に,世界に先駆けてチオホスホン酸を光学分割剤として用い,全く新しい結晶生成原理による光学分割に成功している。

3. 優先晶出法とジアステレオマー塩法の融合
  西郷氏は,誘導化剤選択と分割剤選択における化学構造上の要求の類似性=分子長原則=に着目し,ジアステレオマー塩法で高い分割効率を達成できる酸とアミンの組み合わせに関して,両者のラセミ体から調製した塩が極めて高い確率でコングロメレート結晶になることを見出した。この結果は,今までにジアステレオマー塩法によって光学分割に成功している酸・アミンの組み合わせについては,ラセミ体同士の塩として優先晶出法で光学分割できる可能性が高いことを示しており,この方法によればラセミ体の酸とラセミ体のアミンから一挙に酸およびアミンの両対掌体が得られることになり,科学的な観点からばかりでなく実用面からも意義深い。

4. 非天然型不斉補助剤の創製と不斉合成への応用
  西郷氏は,光学分割が容易になれば非天然型不斉補助剤設計の自由度は広がり,両対掌体を適宜使い分けることによって望みの絶対配置をもった目的化合物を不斉合成できるとの考えに従い,エリトロ-2-アミノ-1,2-ジフェニルエタノール,シス-2-アミノ-1-アセナフテノール,シス-2-アミノ-3,3-ジメチル-1-インダノールなどを設計し,それらの光学分割法を開発した。これらをケトンの不斉アルキル化,イミンの不斉アルキル化・アリル化,不斉Mannich型反応,不斉Staudinger反応,不斉Reformatsky型反応,不斉Claisen反応,不斉Deils-Alder反応,アシルオキサゾリジノンの不斉アルキル化・アリル化・臭素化・酸化反応,触媒的不斉還元反応,アリル化合物の触媒的不斉アミノ化反応など各種不斉反応に応用し,極めて有用な不斉補助剤であることを実証した。更に,不斉合成の対象化合物を不斉炭素化合物から不斉リン化合物へと広げ,アンチセンス分子として有望視されているホスホロチオエートDNAの立体選択的合成にも成功している。

  以上のように西郷氏は,光学分割の分野が大きく依存していた偶発的発見と試行錯誤から脱却するための先駆的な業績を挙げ,新たな結晶系の発見,非天然型不斉補助剤の創製と応用に成果を挙げるなど,有機合成化学の発展に大きく貢献し,国際的にも高く評価されている。よって,同氏は有機合成化学協会賞を受ける十分な資格があるものと認め,ここに選定した次第である。

[略歴]
昭和44年 3月 東京工業大学理工学部卒業
昭和51年 11月 理学博士(東京工業大学)
現在 東京大学大学院新領域創製科学研究科/ 大学院工学系研究科 教授

 

 


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