・椋田 隆司 アステラス製薬(株)/「リポペプチド系抗真菌剤ミカファンギンの工業化」  
  ・古川 喜朗 ダイソー(株)/「光学活性プロパノール誘導体の工業的製法の開発とその応用」  

 


 

椋田 隆司氏 橋本 典夫氏 下条 芳敬氏
大東  篤氏 渡辺  勝氏
 (アステラス製薬(株))

(業績)「リポペプチド系抗真菌剤ミカファンギンの工業化」


 
 


  本技術は真菌に特異的な細胞壁の主要構成成分である1.3-β-D-グルカンの生合成を阻害する新規作用機序を有したキャンディン系抗真菌薬ミカファンギンの工業的製造プロセスの開発に関するものである。ミカファンギンは深在性真菌症の主要起因菌であるカンジダ属およびアスペルギウス属に優れた活性を示し,2002年日本で発売,さらに2005年米国においても発売されている。
  ミカファンギンは醗酵生産物を酵素的に脱アシル化した母核中間体を別途化学的に合成したアシル側鎖酸のHOBtエステルを用いて選択的にN-アシル化することで得られるが,熱的に不安定なミカファンギン原薬が安定的に高品質で得られ,かつ環境にも配慮した工業的製造プロセスの開発が必要不可欠であった。
  本研究者らは以下に示す独創的発想や技術を駆使することによって,ミカファンギン原薬の工業的製造法を確立した。

1. ミカファンギン原薬
  多くの官能基を有する母核中間体のN-アシル化反応における反応副生成物や分解生成物の構造解析を行い,その生成機構を解明することで,選択的N-アシル化反応条件や後処理条件を設定した。さらにジイソプロピルエチルアミン塩による単離精製,樹脂精製,混合溶媒系による沈殿等のプロセスを導入し,高品質,高収率でミカファンギン原薬を得る製造法を確立した。
原薬は分子量が1270を超える環状高分子化合物であり,結晶として得ることが困難であったが,ミカファンギン水溶液を混合溶媒系にて非晶質として沈殿単離することに成功した。しかし,この沈殿工程における精製効果が期待できないことから,アシル化反応中の副反応や後処理中の分解を抑制し,効率的精製が可能なプロセスの開発が必要となった。
  鍵中間体は多くの官能基を有していることから,側鎖酸活性化方法について検討した結果,HOBtの活性エステルを用いることにより,最も高い反応性と選択性でアシル化反応が進行した。
また反応副生成物や分解生成物等の不純物構造解析とその生成機構を解明し,不純物生成を低減可能な選択的N-アシル化反応条件や分解物抑制などのプロセス操作条件を設定した。
  さらにジイソプロピルエチルアミン塩での単離精製およびアルミナ樹脂精製の導入により,高品質,高収率でミカファンギン原薬を得る製造法を確立した。

2. 側鎖酸活性体
  基本骨格である非対称3,5-ジアリールイソキサゾール環構築法はフェニルアセチレン体への1,3-双極子付加環化やα,β-不飽和オキシムの分子内環化反応などが知られているが,使用上問題のある重金属やコスト面の課題があった。一方,ジアリール-β-ジケトンのオキシム化反応を経由する非対称3,5-ジアリールイソキサゾール環構築法はその位置選択性が低く,異性体の分離が困難であるなどの問題点があった。
  これらの問題を解決するべく安価で大量入手容易な4−ヒドロキシアセトフェノンを出発原料とし,ジアリール-β-ジケトンから高純度で得られる所望のβ-ケトエナミン体を経由し,ヒドロキシルアミンとのエナミン交換反応,分子内環化反応により,極めて高い位置選択性で非対称3,5-ジアリールイソキサゾール環を構築する新規プロセスを開発した。また不要となるβ-ケトエナミン体異性体は,加水分解反応によりジアリール-β-ジケトンとして回収プロセスも開発した。この非対称3,5-ジアリールイソキサゾール環製造法は高い位置選択性と異性体の回収プロセスを達成した実用的な製造法と言える。

  よって、本業績は社会への貢献を果たすとともに、有機合成化学の発展への寄与も大きく、有機合成化学協会賞(技術的なもの)に十分値するものと認められる。

[略歴]
椋田隆司氏:昭和55年3月 東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了
現在 アステラス製薬(株)合成技術研究所副所長

橋本典夫氏:昭和56年3月 名古屋市立大学大学院薬学研究科修士課程修了
現在 アステラス製薬(株)合成技術研究所主管研究員

下条芳敬氏:平成元年3月 大阪市立大学大学院工学研究科修士課程修了
現在 アステラス製薬(株)技術本部技術開発部課長

大東 篤氏:平成5年3月 関西学院大学大学院理学研究科修士課程修了
現在 アステラス製薬(株)合成技術研究所主任研究員

渡辺 勝氏:平成6年3月 名古屋大学大学院理学研究科修士課程修了
現在 アステラス製薬(株)合成技術研究所主任研究員

 

 


 

古川 喜朗氏 鈴木 利雄氏 三上 雅史氏
北折 和洋氏 吉本  寛氏
 (ダイソー(株))

(業績)「光学活性プロパノール類の工業的製法の開発とその応用」


 
 


  本技術は、光学活性2,3-ジクロロ-1-プロパノール、3-クロロ-1,2-プロパンジオール、1,2-プロパンジオールなどの光学活性プロパノール類および光学活性エピクロロヒドリンの工業的製法の開発と企業化、さらにそれらの医薬品合成への応用に関するものである。
  これらの光学活性化合物は、炭素数が3つの比較的小さな化合物であるにも関わらず、分子内に複数の官能基を有することから幅広い応用が可能である。中でも光学活性エピクロロヒドリンやグリシドールは、反応性に富んだエポキシ基を有し、複雑な化合物への誘導が容易であり、汎用の合成原料として多くの企業が化学合成法やバイオ法などを用いて工業化に取り組んできた。しかしながら、生産性や供給安定性、経済性の面で満足できる製法を開発するには至らなかった。
  本研究者らは、まず光学活性エピクロロヒドリンやグリシドールの前駆体である光学活性2,3-ジクロロ-1-プロパノールや3-クロロ-1,2-プロパンジオールのバイオ法による工業的製法の開発に取り組んだ。その結果、土壌より採取した数万の微生物の中から、これらプロパノール類の一方の鏡像体を立体選択的に資化分解する微生物をそれぞれ発見し、両鏡像体をいずれも98% ee以上という高光学純度で得ることに成功した。さらに、この方法によって得られた光学活性2,3-ジクロロ-1-プロパノールを原料とする光学活性エピクロロヒドリンの工業的製造法も確立し、世界に先駆けて光学活性エピクロロヒドリンと3-クロロ-1,2-プロパンジオールの工業生産を開始するに至った。さらに引き続いて、光学活性1,2-プロパンジオールについても、新たに微生物をスクリーニングすることで立体選択的に資化分解する微生物を発見し、その工業化にも成功した。一方で、光学活性コバルト・サレン錯体を用いる触媒的速度論的光学分割法による光学活性エピクロロヒドリンの工業化にも取り組み、独自の改良を行って、その工業生産をも可能にした。このようにして、バイオ法と化学法の両光学分割法による光学活性プロパノール類および光学活性エピクロロヒドリンの工業的製法を確立した。
  さらに、これらの光学活性プロパノール類やエピクロロヒドリンを原料として、光学活性グリシジルエーテル、グリシジルスルホナート、グリセロールアセトニドなど汎用性の高い合成中間体をいずれも98% ee以上という高光学純度で製造する方法を次々と確立し、現在では(R)体、(S)体合わせて60種類余りの光学活性化合物を世界中に供給している。これらの合成においては、位置選択性や遊離塩素イオンによって引き起こされるラセミ化の問題が存在しているが、相間移動触媒を用いる有機溶媒−水二相系による反応や触媒量のフッ化セシウムを用いる反応など、ラセミ化を抑制しつつ高光学純度で生成物を得る実用的な合成反応を開発している。
  得られた光学活性化合物は、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗エイズ薬、精神病関連薬や抗喘息薬など、既に上市もしくは開発中の様々な医薬品の原料として用いられており、製薬企業の新薬開発に大いに役立っている。
  以上のように本業績は、有機合成化学の発展に大きく寄与するものであり、有機合成化学協会賞(技術的なもの)に十分値するものと認められる。

[略歴]
古川喜朗氏:昭和62年3月 大阪大学大学院理学研究科博士課程修了
現在 ダイソー(株)研究開発本部研究所長

鈴木利雄氏:昭和63年3月 大阪府立大学大学院農学研究科修士課程修了
現在 ダイソー(株)研究開発本部研究所 主席研究員

三上雅史氏:平成元年3月 大阪大学大学院理学研究科修士課程修了
現在 ダイソー(株)ファインケミカル事業部新規製品開発推進部 主席

北折和洋氏:平成2年3月 名城大学大学院薬学研究科修士課程修了
現在 ダイソー(株)ファインケミカル事業部新規製品開発推進部 主席

吉本 寛氏:昭和41年3月 大阪大学工学部卒業
現在 ダイソー(株)常務取締役

 

 


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