第34回有機合成化学セミナー

プログラム

≫初日 ≫2日目 ≫3日目

※MukaiyamaAward=Mと略記、Lectureship=Lと略記、奨励賞受賞講演=Aと略記、
招待講演=Iと略記[敬称略]

初日 [9月12日(火)] 

開会挨拶
I-1 13:40〜14:25 可視光(太陽光)で促進されるフォトレドックス触媒反応:オレフィンの官能基化を中心に
穐田 宗隆 氏(東京工業大学化学生命科学研究所・教授)
  太陽光を含む可視光照射によって促進されるフォトレドックス触媒反応は、触媒の光励起種の特異な連続的一電子酸化-還元特性に基づいた、温和な条件下で進行するラジカル反応系であり、化石燃料を使用しない、犠牲酸化還元試薬を使用しないなどの観点からグリーンな触媒反応系として最近注目を集めている。本講演では、我々のグループで開発したオレフィン類の官能基化を例にして本触媒系の特徴と有効性を紹介する。
I-2 14:25-15:10 タンパク代用物としての短鎖ヘリカルペプチドの創出
井上 将彦 氏(富山大学大学院医学薬学研究部・教授)
  酵素や膜タンパクの阻害薬を探索してきた第1・2世代医薬品開発の限界が見え始め、第3世代医薬品としてタンパク-タンパク間相互作用(PPI)を阻害する物質に注目が集まっている。我々はその候補として、PPIに直接関わるタンパクのα-ヘリックスドメインに着目し、その高次構造を保った短鎖ペプチドの開発を行って来た。講演では、その歴史と最近の成果を発表する。
I-3 15:10-15:55 有機EL材料の高性能化を実現する有機合成技術
松本 直樹 氏(東ソー(株)有機材料研究所・グループリーダー)
  有機ELは、スマートフォンのディスプレイを中心に採用が進み、大きな注目を集めている。高性能な有機EL材料の設計と工業化には、クロスカップリング反応に代表される先端の有機合成技術が活用されている。本講演では、有機EL材料の技術動向と合成技術の活用例に加えて、当社が取り組んでいる電荷輸送材料(電子輸送材料、正孔輸送材料)の開発について述べる。
I-4 16:15-17:00 配位子設計が拓いた新しい有機合成
澤村 正也 氏(北海道大学大学院理学研究院・教授)
  新しい有機配位子を設計、開発することで初めて可能となった金属触媒反応の実例を演者らの最近の研究を題材に、配位子が引き出すメタルのパワーとその多様性について議論する。固相担持による反応空間の孤立化、配位子と金属の協働触媒作用による低反応性分子の活性化と反応制御などに関して、配位子設計の考え方とそれを検証した反応機構研究の成果を中心に、理論計算に関する共同研究の成果も交えて紹介する。
表彰式 17:00-17:15
L-1 17:15〜18:05 Recent progress in the synthesis of semiconducting polymers using CH-activation and controlled polymerizations
Christine Luscombe 氏 (University of Washington・Professor)
  π-Conjugated polymers are being used in the fabrication of a wide variety of organic electronic devices such as organic field-effect transistors (OFETs), organic photovoltaic (OPV) devices, and organic light-emitting diodes (OLEDs). Since the seminal work on the conductivity of polyacetylene by Heeger, MacDiarmid, and Shirakawa was published in 1970s, the field of organic electronics has grown exponentially. The advances made in organic electronics have been driven by the syntheses of π-conjugated polymers with increasingly complex structures. Our group has been studying and developing techniques to grow semiconducting polymers using a living polymerization method. This has allowed us to synthesize polymer architectures that we haven’t been able to access till now including polythiophene brushes, star-shaped P3HT, as well as hyperbranched P3HT. Our recent work related to this, as well as our work towards synthesizing hybrid materials will be discussed.
18:15〜19:00 チェックイン
  ◇夕食 19:00-20:00

2日目 [9月13日(水)] 

A-1 8:30-9:05 新規合成方法論の開発を基盤とする含窒素高次縮環天然物の全合成
岡野 健太郎 氏(神戸大学大学院工学研究科・特命准教授)
  天然には、窒素を含んだ高度な縮環構造を有する天然物が数多く存在する。演者らは、魅力的な生物活性を示しながら、構造の特異さゆえに既存の合成法が適用できない天然物の合成研究を通じて、さまざまな新規反応を開発してきた。本講演では、ジヒドロオキセピンとプロリンが縮環したアセチルアラノチン類の全合成、カルバゾールとピロールが縮環したディクティオデンドリン類の全合成を中心に、最近の成果についても紹介する。
A-2 9:05-9:40 アミド変換反応の開発と天然物合成への応用
佐藤 隆章 氏(慶應義塾大学理工学部・准教授)
  近年、天然物合成・創薬合成の標的化合物は、分子内に多数の官能基を有する分子構造になっている。既存反応のトライアンドエラーによる効率化には限界があり、真に実用的な反応の開発が求められている。私は、1)アミド基への求核付加反応、2)ヘテロ原子-ヘテロ原子結合による反応性制御、3)官能基選択性という3つのコンセプトのもと、実用的アルカロイド合成法を確立し、合成効率化に成功した。
A-3 9:40-10:15 フタロシアニンを基盤としたπ共役系の構築と機能発現
清水 宗治 氏(九州大学大学院工学研究院・准教授)
  フタロシアニンは優れた光・電気化学特性から幅広い分野で応用研究が行われているが、一方で工業分野で価値が見出されたために、構造物性相関に基づく分子設計や合成法の開発があまりなされてこなかった経緯がある。我々はフタロシアニンの可視領域における優れた吸収特性と分子構造の高い平滑性に着目して、その特性を活かした分子設計と合成法の開発により、光・電気化学特性に優れた新規π共役系の創出に成功したので発表する。
I-5 10:35-11:20 1,4-双極性活性種を用いる環化付加反応の開発
松尾 淳一 氏(金沢大学医薬保健研究域薬学系・教授)
  3位にドナー性置換基を有するシクロブタノンをルイス酸にて活性化して生じる1,4-双極性活性種は、炭素-酸素、炭素-窒素、および炭素-炭素多重結合等との間で形式的な[4+2]環化付加反応を起こし、対応する6員環化合物を与える。この反応を用いた全合成研究やその他のシクロブタン環開裂を活用した有機合成反応の開発ついても発表する。
I-6 11:20-12:05 化学的手法による天然毒の生合成研究
山下 まり 氏(東北大学大学院農学研究科・教授)
  低分子天然物の生合成経路は通常の場合、関与する遺伝子やそれがコードする酵素群により明らかにされる。しかし、生合成遺伝子が未同定な場合や、各ステップの反応が解明されていない場合、生合成中間体の構造やその存在を明らかにすることで解明へアプローチできる。講演では、含グアニジン海洋天然毒のテトロドトキシンとサキシトキシンの化学的手法による生合成経路の研究について紹介する。
  ◇昼食・ランチョンセミナー (12:05-13:10)
  13:10-15:30 ポスターセッション
I-7 15:50-16:35 選択的RORγ阻害剤の創製-ドラッグライクネス指標をガイドに用いた合成展開-
塩崎 真 氏(日本たばこ産業(株)医薬総合研究所化学研究所・副所長)
  RORγは、1994年に発見されたオーファン核内レセプターの一種であり、Th17細胞の分化・増殖を司るマスターレギュレーターとして知られる。近年、Th17細胞の機能制御が様々な免疫不全の改善につながることが明らかになり、本核内レセプター阻害剤が新たな自己免疫疾患治療薬として一躍注目を集めることとなった。本講演では経口投与で有効性を示す新規RORγ阻害剤の創出、又その際活用したユニークな探索手法について報告する。
I-8 16:35-17:20 ハイブリッド天然物に学ぶ
鈴木 啓介 氏(東京工業大学理学院・教授)
  私達は、天然有機化合物の美しく、多彩な構造に魅せられ、全合成研究を行ってきた。特に複数の生合成経路の交差により産生される複合構造(ハイブリッド天然物)を標的に選んできた。全合成はしばしば登山に喩えられるが、あえて登りにくい山を目指し、遭遇する問題を契機に、新たな登山ギア(合成手法)や登山ルート(合成戦略)を開拓し、それらを駆使して登頂(全合成)を目指してきた。講演では、いくつかのエピソードを紹介したい。
M-1 17:20-18:10 On Discovery in Catalysis
Frank Glorius 氏 (Universität Münster・Professor)
  Catalysis is a key technology of our modern societies, since it allows for increased levels of selectivity and efficacy of chemical transformations. While significant progress can be made by rational design or engineered step-by-step improvements, many pressing challenges in the field require the discovery of new and formerly unexpected results. Arguably, the question “How to discover?” is at the heart of the scientific process. In this talk, strategies and discoveries from the Glorius group will be discussed. Topics will involve the use of N-heterocyclic carbenes in different fields of catalysis and also photocatalysis.
  18:30-20:00 夕食・自由行動 (20:00- )

 

3日目 [9月14日(木)] 

A-4 8:50-9:25 糖質の精密合成・機能解析・機能制御分子の創製に関する研究
高橋 大介 氏(慶應義塾大学理工学部・准教授)
  第三の生体高分子である糖質の重要性が明らかになるにつれ、さらなる天然生物活性糖質の機能解明と制御に関する研究が注目を集めている。このような背景の中、演者らは、有機ホウ素化合物を利活用した新規グリコシル化反応の開発と応用、硫酸化多糖フコイダン類縁体の系統的合成と生物活性評価、および標的糖質を選択的に光分解し、その機能を制御する新たな人工生体機能分子の創製研究に取り組んできた。本講演では、それらの詳細について紹介する。
A-5 9:25-10:00 迅速かつ強力なカルボン酸の活性化を基盤とするマイクロフローペプチド合成法の開発
布施 新一郎 氏(東京工業大学化学生命科学研究所・准教授)
  ペプチド医薬品の需要の高まりを背景に、ラセミを回避しつつ、クリーンに多様なアミノ酸を連結できる手法の開発がますます重要になっている。演者らは従来のアミド化のコンセプトとは逆の、迅速かつ強力なカルボン酸の活性化を基盤とするペプチド合成法を開発してきた。本手法では、マイクロフロー法を活用し、バッチ反応では取扱い困難な高活性中間体を巧みに利用している。本講演では開発した手法を用いた様々な有用ペプチド合成の実例を紹介する。
  ポスター賞表彰 (10:00-10:15)
M-2 10:30-11:20 協働金属触媒による有機合成反応
中尾 佳亮 氏(京都大学大学院工学研究科・教授)
  金属触媒を用いる有機合成反応は、現代有機合成において欠かせない分子変換手法であるが、既知の金属触媒を単独で用いて行える反応には限りがある。本講演では、二つの金属触媒を複合的に用いて初めて進行する分子変換について、有機合成における有用性とその協働触媒機構を述べる。
☆閉会式