第36回有機合成化学セミナー

プログラム

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※MukaiyamaAward=Mと略記、Lectureship=Lと略記、奨励賞受賞講演=Aと略記、 招待講演=Iと略記[敬称略]

第1日 [9月17日(火)] (於;長良川国際会議場)

開会挨拶 13:00-13:10 開会式: 
I-1 13:10~14:00
  ヨウ素を活用する有機合成反応
(大阪大学大学院工学研究科教授)南方 聖司
ヨウ素は我が国が保有している数少ない資源の一つであり、演者らはこの元素を巧みに利用した有機合成反応の開発を中心に研究を進めている。本講演では、単体ヨウ素を触媒として、また、ヨウ素官能基を基質として、さらに、ヨウ素を含む反応試剤として、ヨウ素の特性を活用した合成反応について発表する。見出した反応の殆どは偶然の発明であり、そういった経緯も含めて紹介する。
I-2 14:00~14:50
  量子化学計算に基づく反応経路ネットワークと、その反応予測への展開
(北海道大学大学院理学研究院教授)前田 理
化学反応は、量子化学計算に基づく反応経路ネットワークを解析することにより理解できる。我々は、反応経路ネットワークを求める反応経路自動探索法と、速度論に基づいて反応経路ネットワークを自動解析する手法の開発に取り組んできた。これらを高度に組み合わせることで、未知の化学反応を設計し、合成化学者へ提案することも可能になりつつある。本講演では、我々が開発してきた手法の概要と、それらを用いた反応機構解析、および、化学反応を設計し発見する取り組みについて紹介する。
休憩 14:50~15:00
I-3 15:00~15:50  
  官能基標的触媒による化学選択性の触媒制御を基盤とする複雑系分子の直接的 変換反応の開発
(九州大学大学院薬学研究院教授) 大嶋 孝志
多くの官能基を有する医薬などの複雑系分子の合成には、官能基選択性(化学選 択性)の制御が極めて重要である。この化学選択性は官能基の本質的な反応性の差を利用して制御されるため、その選択性を逆転するためには、反応性の高い官能基の保護などが必要がある。そこで我々は、官能基の保護・脱保護の工程などを用いない環境調和性の高い合成プロセスを構築を目的とし、より反応性の低い官能基を選択的に活性化するこ とを可能とする”官能基標的触媒”の開発について研究を行なっており、本講演では、最近の研究を中心に紹介したい。
I-4 15:50~16:40 
  有機触媒を用いた最近の進展
(東北大学大学院理学研究科教授)林 雄二郎
有機触媒は金属触媒、生体触媒につぐ第3の触媒として、急速な進展を遂げてきた。今回、有機触媒に関する我々の研究室の最近の成果を紹介する。反応開発として、ハイブリッド型有機触媒による、ドミノ反応を利用した、有用な炭素骨格の不斉構築法の開発を述べる。また、複数の反応を連続的に一つの反応容器内で行うワンポット反応は、効率的な合成手法として注目されている。有機触媒を用いたワンポット反応を利用した、生物活性天然物の短工程合成に関する研究成果も合わせて紹介する。
休憩 16:40~16:50
◇表彰式 16:50~17:10
  【Mukaiyama Award】
M-1 17:10~18:10 
  Break-it-to-Make-it Strategies for Complex Molecule Synthesis
(University of California , Berkeley, U.S.A)Richmond Sarpong
Natural products continue to inspire and serve as the basis of new medicines. They also provide intricate problems that expose limitations in the strategies and methods employed in chemical synthesis. Several strategies and methods that have been developed in our laboratory and applied to the syntheses of architecturally complex diterpenoid alkaloids, indole alkaloids, and several Lycopodium alkaloids, will be discussed. In addition, new ways to employ C–C bond cleavage in synthesis will be presented (i.e., break it to make it strategies).

※バスでホテルパークへ移動して、チェックイン、その後レセプション、ミキサーを予定

第2日 [9月18日(水)] (於;長良川国際会議場)

8:00 バスでホテルパークを出発して長良川国際会議場へ(所要時間 約10分)

A-1 9:00~9:35
  不活性結合の切断を伴う触媒的炭素骨格構築反応
(東京大学大学院工学系研究科准教授)岩﨑 孝紀
有機合成反応では、結合の切断と形成を繰り返すことにより、望みの有機分子を合成する。そのため、切断が容易な比較的結合エネルギーの小さな化学結合が分子変換の足掛かりとして専ら利用される。本講演では、一般に化学的に不活性と考えられている炭素―フッ素結合のような不活性結合の有機合成化学への利用を指向した遷移金属触媒の設計と、それらを用いた不活性結合の切断を経る炭素骨格構築手法ならびにその特徴を利用した有機合成への応用について紹介する。
A-2 9:35~10:10
  ヘリセンのらせん構造内部空間に着目した機能性分子の創製研究
(昭和薬科大学薬学部講師)臼井 一晃
らせんπ共役構造と特異な電子環境を兼ね備えたヘリセンは代表的ならせん性不斉分子であり様々な研究分野で注目されてきた。なかでも、らせん構造内部に官能基を有するヘリセンは、強固なキラル場における不斉認識により多様な機能の発現が期待されるが合成技術が未成熟なため開発が遅れていた経緯がある。演者らは、らせん構造内部置換型ヘリセン類の合成研究を通じて、様々な機能性分子を開発してきた。本講演では、らせん性不斉を有するホスフィン配位子の開発や特異な自己集積構造を形成するヘリセンの合成についても発表する。
A-3 10:10~10:45
  水素抽出型化学変換法の開発と応用展開
(岐阜薬科大学薬学部准教授)澤間 善成
水素は還元剤などとして汎用されるが、高圧ガス保安法に基づいた厳密な管理が必要である。また、主としてメタンの水蒸気改質で製造されるため、二酸化炭素の副生は避けられない。ステンレス球の衝突エネルギーや不均一系触媒的活性化を利用することで、水・炭化水素・エーテル・アルコール・不飽和脂環式化合物を原料とした二酸化炭素フリーでの水素の取り出し技術の開発に成功した。また、これら手法を応用した、還元反応・酸化反応・重水素標識化などを紹介する。
ブレイク 10:45~11:00
A-4 11:00~11:35
  含窒素芳香族化合物の新構築法に基づいた多機能性発光分子の創製
(大阪大学大学院工学研究科准教授)武田 洋平
含窒素芳香族化合物は、医農薬や有機エレクトロニクス材料など機能性物質として広く利活用されている。我々は芳香族アミンの新奇酸化的変換に基づいた含窒素芳香族化合物の構築法を開発してきた。また、開発した手法で合成できる電子欠損性π電子ユニットを活用することで、効率的な熱活性化遅延蛍光やコンフォメーション変化を鍵とする発光性メカノクロミズムなど、特異な光機能を複数兼ね備えた発光分子を創出し、有機エレクトロニクス材料への展開にも成功した。本講演では、反応発見の経緯から光機能開拓に至る研究成果を紹介する。
A-5 11:35~12:10
  不均一系触媒としての金属ナノ粒子の創成と有機合成への展開
(東京大学大学院理学系研究科助教)宮村 浩之
演者は新規金属ナノ粒子触媒を開発し、不均一系触媒として広く有機合成化学に活用できることを明らかにした。有機反応における有効な反応場を提供する高分子担体を用い、モノマーレベルでその構造を制御することで、配位子や共触媒などの様々な機能を持つ,多機能性不均一系金属ナノ粒子触媒を創成した。これらの触媒を用いた酸化還元反応、不斉炭素-炭素結合形成反応、協調触媒反応などの高次に制御された反応系を実現した。さらに、不均一系触媒を用いるタンデム反応や、フロー合成などの反応集積化の分野の発展にも寄与した.
ポスターセッション 13:30~15:30
I-5 15:40~16:30
  メカノケミストリー:機械刺激応答機能と有機合成への展開
(北海道大学大学院工学研究院教授)伊藤 肇
固体や結晶性の有機物や反応剤の多くは、安定で反応しにくいというイメージを 持たれている。我々は10年ほど前に機械的刺激に対して発光性が変化する金錯体を偶然見つけ、結晶相転移を活用した刺激応答材料の開発を行った。さらにそれらの研究を通じて、「結晶が意外に構造変化しやすい」という直感から、固体のまま有機合成を実施する「メカノケミカル合成」の研究を展開している。これらについて最近の成果を述べる。
I-6 16:30~17:20
  次亜塩素酸ナトリウム5水和物(SHC5):取扱いと有機合成反応への応用
(日本軽金属株式会社)岡田 倫英
次亜塩素酸ナトリウム水溶液は環境調和型の酸化剤であるが、市販の水溶液は安定性が低く希薄溶液であるため、工業的な有機合成反応への利用には問題があった。このような課題がある中、我々は次亜塩素酸ナトリウム5水和物(SHC5)の工業生産を実現し提供している。SHC5は従来の水溶液に比べて、(1)高濃度、(2)高活性、(3)高安定性、という特徴があり、酸化反応のプロセス改善が期待できる。本講演ではSHC5の取扱い方とアルコール類や硫黄化合物の酸化反応を含め、最近の応用例も紹介する。
休憩 17:20~17:30  
◇表彰式 17:30~17:40
  【Lectureship】
L-1 17:40~18:40
  Catalytic Carbonyl-Olefin Metathesis and Oxygen Atom Transfer
(University of Michigan ,U.S.A.)Corinna S.Schindler
The metathesis reaction between two unsaturated organic substrates is one of organic chemistry’s most powerful carbon-carbon bond forming reactions. The catalytic olefin-olefin metathesis reaction has led to profound developments in the synthesis of molecules relevant to the petroleum, materials and pharmaceutical industries. While the corresponding carbonyl-olefin metathesis reaction similarly enables the direct construction of carbon-carbon bonds, currently available methods are significantly less advanced. We have recently developed the first catalytic carbonyl-olefin ring-closing metathesis reaction that utilizes iron as an earth-abundant and environmentally benign transition metal. Our reaction design accommodates a variety of substrates and is distinguished by its operational simplicity and mild reaction conditions.

*バスでホテルパークへ移動、その後 夕食、ミキサーを予定

第3日 [9月19日(木)](於;ホテルパーク) 

I-7 8:30~9:20
  複合脂質の合成と免疫調節作用制御への展開
(慶應義塾大学理工学部教授)藤本 ゆかり
近年、内因性あるいは外因性(微生物、食品等由来を含む)の多様な複合脂質が、免疫調節に関わることが明らかになっている。我々は、脂質部位の役割に着目し、様々な“特徴ある”脂肪酸含有複合脂質の合成を進めており、例えばシクロプロパン環や極性官能基等を脂質部位に含む複合脂質について、合成法開発とライブラリ構築を行っている。また、複合脂質ライブラリを用い、“隠された”免疫調節機能の探索を行っている。本講演では、複合脂質合成法および免疫バランス調節に関わる複合脂質について、最近の成果を紹介する。
I-8 9:20~10:10
  光学活性分子の新規合成法の開発
(京都大学大学院工学研究科教授)松原 誠二郎
不斉分子の合成法は、「エナンチオ面を選択する」ことを思い浮かべる。しかし、光学活性分子には多くの種類があり、様々な有機合成的手法を開発し、適応していかねばならない。今回,ビアリールの軸不斉発現や立方体炭化水素であるキュバンへのキラリティーの導入を中心に紹介する。
休憩 10:10~10:20
M-2 10:20~11:20
  典型金属ヒドリドを用いる有機合成反応
(Nanyang Technological University , Singapore)千葉 俊介
最近我々は、専ら単純な塩基として用いられている水素化ナトリウム(NaH)が、ヨウ化ナトリウム(NaI)やヨウ化リチウム(LiI)などの添加剤存在下、特異なヒドリド還元剤として作用し、アミドのアルデヒドへの制御還元や、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン水素化反応に利用できることを見出した。これを契機に、NaHを水素源として利用することで容易に調整可能な、他の典型金属ヒドリドの化学反応性にも興味を持ち、調べ始めた。本講演では、それらの成果をまとめて紹介する。
ポスター賞・閉会式 11:20~11:40
  ポスター賞授与・閉会挨拶