第38回有機合成化学セミナー

プログラム

≫初日 9月28日(水)  ≫2日目 9月29日(木)  ≫3日目 9月30日(金)

※Mukaiyama Award受賞講演=M、Lectureship Award受賞講演 =L、奨励賞受賞講演=A、招待講演=Iと略記
開会式 13:00-13:10  

9月28日(水)

I-1
13:10-14:00
『混乱から創造へ』 ― 混乱型ポルフィリノイドの創製と展開
古田 弘幸 (立命館大学 総合科学技術研究機構)
ポルフィリン環を構成するテトラピロールの連結位置が異なるポルフィリン異性体「N–混乱ポルフィリン」の発見を機に、一連の混乱型ポルフィリノイド (異性体、環拡張体、環縮小体) の創製研究を展開している。ピロール窒素原子に加え炭素原子が金属配位部位に組み込まれることで、分子の電子状態が変化し、芳香族性や物性、反応性に大きな影響がもたらされる。本講演では特徴ある化合物を例に取り、これまでの研究で明らかになった混乱型ポルフィリノイドの一般的性質を解説すると共に、機能化へ向けた試みについても紹介する。
I-2
14:00-14:50
フロー化学を通じた古典的活性種の理解と応用
布施 新一郎(名古屋大学大学院創薬科学研究科)
演者は過去10年以上に渡って、微小な流路を反応場とするマイクロフロー合成法を駆使した反応開発に取り組んできた。フロー合成法は実用性の高いプロセスを創出する上で有用なことは間違いないが、演者は活性種についての理解を深めるためのツールとしての有用性に大きな魅力を感じている。本講演では、長い歴史をもつ古典的な高反応性の活性種に焦点を当て、理解を深めつつ、ペプチド合成を始めとした応用展開に取り組むことで得られた、これまでの成果について紹介する。
I-3
15:00-15:50
稠密に官能基化された天然物の合成研究:複雑な分子を読み解く
大森 建(東京工業大学理学院)
複雑で一見手のつけようもなく見える天然有機化合物も、そこに潜んでいる基本的な有機合成的課題を探り出しそれを理解すると、これまで困難と思っていた合成が、まるで解けた知恵の輪のように、いとも簡単に実現できることがあります。本セミナーでは天然有機化合物の全合成研究におけるいくつかの実例を挙げ、個々の場面でどのように問題を把握し、考え、それを解決したか、その試行錯誤の経験談をお話します。
I-4
15:50-16:40
有機触媒反応を活用したペプチド合成と後期修飾法の開発
竹本 佳司(京都大学大学院薬学研究科)
我々は、キラルなチオ尿素触媒を用いることでβ-アミノ-α-ケト酸の触媒的不斉合成法を確立している。このβ-アミノ-α-ケト酸は、各種酸化的条件下で、アルコールやアミンとカップリング反応を起こし、エステル、アミド、チオアミドに変換することができた。さらに、ペプチドのアミドN–Hを選択的にクロロ化する触媒反応を見出し、続く脱離反応に付すことでデヒドロペプチド誘導体に変換できることを見出した。本講演ではその利用法についても紹介する。
M-1
17:00-18:00
Strained Intermediates and Chemical Education
Neil Garg
(University of California, Los Angeles, U.S.A.)
This presentation will describe my laboratory’s recent efforts to utilize strained cyclic alkyne and allenes as building blocks for the preparation of nitrogen-rich heterocycles and natural products. Initiatives in the realm of chemical education will also be described.

9月29日(木)

A-1
9:00-9:40
レドックス化学による高歪有機分子の構築と機能開拓
石垣 侑祐(北海道大学大学院理学研究院)
炭素を主とする有機化学において,炭素-炭素(C–C)共有結合は重要な概念である。このC–C共有結合は本来剛直なため,その結合長や結合角といった構造パラメータは,結合の次数,あるいは混成軌道によって基本的に決まった値をとる。一方,高度に歪んだ分子ではこの標準値から逸脱することで,特異な構造及び機能を発現し得るが,如何にして歪みを付与するかが課題となっていた。本講演では,レドックス化学による高歪有機分子の構築と,光や熱などの外部刺激による応答機能について紹介する。
A-2
9:40-10:20
高活性ブレンステッド塩基が拓く炭素-水素・炭素-酸素結合の直截的分子変換
重野 真徳(東北大学大学院薬学研究科)
私達は、高活性ブレンステッド塩基を用いて、炭素-水素・炭素-酸素結合の直截的な分子変換反応の開発を進めています。特に、嵩高いカチオンを取り入れて、高反応性のアニオン種を創出することを基盤としています。(1) 系内発生アミド塩基による低活性な炭素-水素結合の触媒的変換、(2) フォスファゼン塩基による炭素-メトキシ結合の触媒的交換反応、(3) 複合ブレンステッド塩基による芳香族複素環へのCO2固定について発表します。
A-3
10:20-11:00
タンパク質全合成のためのペプチド連結化学
林 剛介(名古屋大学大学院工学研究科)
近年、化学合成ペプチドを連結させて全長タンパク質を得る「タンパク質化学合成法」が発展してきた。しかし、未だに疎水性ペプチドの連結や複数ペプチド断片の効率的連結には課題が残されている。本講演では、これまでに我々の研究グループで開発してきた「ワンポットペプチド連結反応」や「DNA足場を用いたペプチド連結反応」、「ペプチドチオエステル(あるいはセレノエステル)合成法」について紹介する。
A-4
11:10-11:50
精密糖鎖合成を基盤としたグリココード解読と利用
真鍋 良幸(大阪大学大学院理学研究科)
糖鎖は,核酸タンパク質に続く第3の生命鎖と呼ばれ、さまざまな疾患に関連するが、多様かつ複雑な構造を有し、合成による供給が困難で、その機能解明は十分ではなく、医薬への応用も限られいる。我々は、合成化学的なアプローチによる糖鎖機能の解明・制御を目指している。まず、糖鎖の効率合成のために反応開発を行い、その反応を用いて、種々の生物活性糖鎖の合成を達成した。さらに、その合成糖鎖を利用したケミカルバイオロジー研究を展開した。
A-5
11:50-12:30
不斉合成を変革する動的らせん高分子触媒の開発
山本 武司(京都大学大学院工学研究科)
有機合成化学の発展は人工高分子の精密合成を実現しつつあり、高分子主鎖に形成されるらせん不斉構造を利用したキラル機能性材料の開発が進められている。本講演ではポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)を主骨格とするキラルらせん高分子触媒の開発について解説し、外部刺激による動的らせん不斉制御に基づいた鏡像異性体の高選択的作り分けを紹介する。また、高分子構造に由来する反応機構制御や不斉増幅の実現など、キラルらせん高分子触媒の意義について示す。
☆ポスターセッション13:30-15:30
I-5
15:40-16:30
トリフルオロメチル化反応の新展開
網井 秀樹 (群馬大学大学院理工学府)
有機フッ素化合物は、医薬、農薬、液晶材料、高分子材料などの様々な産業分野において利用されている。特に、学界・産業界におけるトリフルオロメチル化合物の応用は顕著である。私たちは、触媒的芳香族トリフルオロメチル化クロスカップリング反応の研究を行ってきた。求核的トリフルオロメチル化剤を用いるイソベンゾフラン中間体の発生により、トリフルオロメチル化芳香族化合物の新合成法を開発した。本公演では、カルボニル化合物の簡便な求核的トリフルオロメチル化法などについても紹介する。
I-6
16:30-17:10
東ソーのハロゲン化学と有機合成
宮崎 高則 (東ソー(株) 有機材料研究所)
当社は、「ライフサイエンス」「環境・エネルギー」「電子材料」を重点3分野に定め、蓄積したハロゲン化学と有機合成技術を活用し、高付加価値製品の創出を目指している。近年では、SDGs (持続可能な開発目標) を研究開発テーマに取り入れながら、産学連携によるオープンイノベーションにも力を入れている。今回は、当社ハロゲン化学を概説するとともに、誘導化学品である臭素系難燃材料の研究開発について紹介する。合わせて、産学連携で培ったクロスカップリング反応 (芳香族ニトロ化合物やカルバゾール化合物の変換) についても解説する。
L-1
17:20-18:20
Designing Catalysts and Reactions for the P(III)/P(V)=O Couple
Alexander T. Radosevich (Massachusetts Institute of Technology, U.S.A.)
My research group is invested in the discovery of phosphorus-based catalysts that make and break bonds via two-electron changes in formal oxidation state. By enforcing nontrigonal geometries on tricoordinate P(III) compounds, we attempt to create structural and electronic conditions that facilitate catalytic cycling in the P(III)⇌P(V) redox couple. This approach has resulted in the development of diverse catalytic atom transfer and bond activation methods based on inexpensive, nonmetal phosphorus catalysts. The synthetic and mechanistic aspects of these reactions and their connection to other organophosphorus catalyzed methods will be described.

9月30(金)

I-7
9:00-9:50
自己集合により形成される超分子構造の合成と機能
灰野 岳晴(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
我々は、自己集合に生じる超分子構造が、構成単位である分子には無い特異な機能を示すことを見出してきた。本講演では、分子集積化により生まれる新しい不斉空間の構築やそこに生み出される新しい機能について紹介する。主に、キラルな超分子カプセルの不斉認識や超分子らせんポリマーの合成、円偏光発光の制御について述べる。
I-8
9:50-10:40
結合の新しい反応性を引き出す楽しみ
茶谷 直人(大阪大学名誉教授)
有機合成化学は、有機化学の一分野というだけでなく、材料科学、生命科学など物質を必要とするすべての科学分野を支える中心的な存在である。しかし、原子効率、元素戦略、カーボンニュートラルなど有機合成化学を取り巻く環境も変化し、複雑化している。その中で、有機合成化学の発展なくしては、社会の持続性を維持することができない。小手先の改良ではなく、今まで当然と思っていた戦略そのものの変革が必要である。不活性な結合の利用も、その一つである。今までの成果を紹介する。
M-2
10:50-11:50
3価ヨウ素化合物の新しい反応と合成の探求
吉戒 直彦 (東北大学大学院薬学研究科)
3価の有機ヨウ素化合物は、有機合成における酸化剤として広く用いられるとともに、近年では求電子的な官能基導入剤としての開発と応用が急速に発展している。3価ヨウ素化合物の反応は一般的に、ヨウ素が3価からより安定な1価へと還元されることを駆動力とするのに対し、我々は最近、ヨウ素の還元を伴わない3価ヨウ素化合物の新しい反応および合成法を開発している。本講演では、これらの反応の発見の過程および有機合成における有用性について紹介する。
☆閉会式11:50-12:00