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平成29年度 前期(春季)有機合成化学講習会 開催報告

日時
平成29年6月14日(水)~15日(木)
1日目 9:45~18:30(イブニングセッション:自由参加)
2日目 9:30~16:55
場所
(公社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール
東京都渋谷区渋谷2-2-15 / TEL.03-3406-3326(地図
主催
有機合成化学協会(共催:日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会)
テーマ
「有機合成化学が創出するイノベーション – 世の中に貢献する手法とは? -」
交通
JR渋谷駅東口より高樹町方面へ高速道に沿って徒歩約8分
詳細は 長井記念館Webサイトよりご確認ください
プログラム
詳細プログラムへ

開催報告

有機合成化学は、「ものづくり」にとって欠くことのできない研究分野であるとともに、日本が世界に対する強みを発揮している研究分野でもあります。 「欲しいもの」を作り出すために、「新しい反応」、「新しい反応剤」、「新しい触媒」などが種々生み出され、有機合成化学者が作り出せる「欲しいもの」は、材料、機能性分子、医薬、農薬など、多種多様となっています。
有機合成化学の発展は目覚ましく、様々な研究成果が日々、報告されています。その中から、今回の講習会では、「世の中に貢献する手法とは?」との切り口で、最近の、興味深い研究を勉強する機会を設けました。
今回は、「低分子」、「中分子」、「高分子」に垣根を設けず、「世の中に貢献する」という観点から、第一線で研究するご講師をお招きしました。天然物・医薬・農薬を目指した合成、機能性分子の創出やその利用、新反応の開発さらにはケミカルバイオロジー、蛍光イメージングなどの様々なテーマについて、「世の中に貢献する」魅力的な研究を進められている大学および企業の先生方より、「講習会」という観点から、研究の背景を含む総説的な解説や実験ノウハウなども盛り込んでいただきながら、研究のトピックスをご紹介いただきました。

第1日目

朝一番からほぼ満席の中、砂塚委員長の開会の挨拶から始まりました。

最初の講演は、植草秀裕先生(東工大理)による、「最近の有機結晶構造解析-粉末結晶解析による医薬品原薬の結晶構造-」でした。粉末結晶構造の基礎から、医薬品原薬の結晶構造解析を行った結果まで幅広くお話をいただきました。合成化学者にも非常に分かり易い解説で、勉強になる講演でした。結晶構造を明らかにすることで、溶解性・吸湿性といった様々な物性がなぜ起きているのかを理解することが出来る実例や、ベイポクロミズム現象による結晶の色変化の原因も明らかにすることが出来る、といった説明があり、構造を明らかにするだけでない、結晶構造解析のポテンシャル・奥深さを知る良い機会となりました。

次の講演は、北條裕信先生(阪大蛋白研)より「有機合成によるタンパク質、糖タンパク質の機能解析をめざして」という演題で、タンパク質の化学合成に関する一連の研究を紹介いただきました。巨大な分子を化学合成で行おうという挑戦的な内容でした。ペプチド鎖が伸長していくと、溶解性が問題となることが多く、如何に溶解性を確保しながら合成を進めるか、という課題を乗り越えた様々な工夫は、参加者の多くにとって非常に参考になる内容でした。なぜ大腸菌に合成させないのか、という問いに対しても、機能解析には均質性が重要であると、化学合成の意義を示され、合成化学者を元気にさせる講演でした。

午後一番は企業からの講師で、川中康史先生(小野薬品工業(株))による、「Dual CysLT1/CysLT2受容体拮抗薬Gemilucast(ONO-6950)のプロセス開発」の講演でした。不安定な中間体を安全に製造できるプロセスの開発や、スケールアップに伴って生じた問題の解決、低収率工程の改良など、数々の困難を回避し、製造プロセスに仕上げるまでを詳しく説明いただきました。いずれも反応条件によって巧みに回避をしており、反応条件の最適化の重要性を再確認できました。

続いては、大栗博毅先生(東京農工大)から、「天然物の骨格多様化合成」という演題の講演がありました。コンセプトは、ターゲット化合物の合成を直接目指すだけではなく、周辺の誘導体の合成も視野に入れ、短工程・簡便に誘導化が可能な共通の中間体を合成し、そこから様々な分子群を構築するというものでした。一見しただけでは、どう合成するの?という化合物をエレガントに合成され、効率的に一連の分子群が得られる様は圧巻でした。

次も企業から、柴山耕太郎先生(日本曹達(株))により「農薬における探索合成研究」という演題で、農薬の基本的な全体感から、開発のポイントなどを解説いただきました。医薬品の開発との相違点などを交えて、農薬開発に馴染の薄い人にとってもイメージの湧く講演でした。殺虫剤・殺菌剤は、虫や菌には毒であるが、人間や他の動物、ひいては益虫にも毒であってはならないという、相反した機能(選択毒性)を付与します。そこが難しさであり面白さなのだろうと感じました。世界の食糧問題に貢献する、という高い志にも感銘を受けました。

引き続き、小池康博先生(慶大理工)から「高分子デザインが拓くフォトニクスの世界」という演題で、光物理の世界を基礎から、合成化学者にも非常に分かり易くお話いただきました。プラスチックファイバーでガラスファイバーを超えるという、それまでの常識を打ち破るまでの経緯はエキサイティングでした。先生ご自身の経験から得た、“大きなブレイクスルーをしようとすればするほど、ファンダメンタルズに戻ることが重要”、というメッセージは企業の研究者にとっても忘れてはならないことだと感じました。

一日目の最後は、玉村啓和先生(東京医歯大生材研)から、「ペプチドミメティックを基盤とした中分子創薬とケミカルバイオロジー」というご講演でした。中分子医薬品として近年注目されているペプチドの欠点を克服する方法として、二次構造、さらには高次構造をも模倣するというペプチドミメティックの概念を実例とともに丁寧に紹介いただきました。さらに抗HIV活性を有するペプチドを見出してから、安定性付与、毒性低下等を達成した研究は、まさにケミカルバイオロジーの神髄という趣でした。

ランチョンセミナー

今回もランチョンセミナーが開催されました。昼食を取りながらスポンサー企業のショートプレゼンテーションを聞くセミナーで、ロックウッドリチウムジャパン(株)から、ハイドライド還元剤について、HPCシステムズ(株)から、反応経路計算ソフトについての紹介がありました。両社は展示スペースにも出展いただいており、そちらで更に詳しいお話を聞くことができました。

ミキサー&イブニングセッション

1日目の講演終了後、本講習会の恒例企画であるミキサー&イブニングセッションが会場隣のロビーにて行われました。2日目にご登壇される先生方も含めて講師の先生方に多数ご参加いただき、簡単な食事とお酒を楽しみながら、和やかな雰囲気でした。先生方との講演内容に関するディスカッションに加え、参加者同士の情報交換や人脈・ネットワーク作り形成の時間として大いに盛り上がりました。

第2日目

2日目の最初のご講演は、谷野圭持先生(北海道大学大学院理学研究院教授)による「シアノ基の特性を活用した炭素-炭素結合形成法の開発」でした。シアノ基の小ささや直線性といった特徴を活かし、先生が大学時代に有用性に気付かれたα-シアノカルバニオンを用いて開発された、様々な二トリル誘導体の反応を開発時のエピソードを交えながらご説明いただきました。シアノアルキル基を用いたエポキシアルコールの転移反応の開発と、この反応を利用したベルカロールの全合成を例として、全合成の研究と反応開発のサイクルを回して技術を高めていかれる点は大変勉強になりました。

2番目のご講演は浦野泰照先生(東京大学大学院薬学系研究科教授)による「蛍光ライブイメージングに基づく化学の新たな医療応用」でした。反応自体はシンプルなものですが、pHを調整することで分子内スピロ環化とその逆反応により生成する化合物の、蛍光特性という機能差をうまく利用して、がん細胞のセンサーとして利用する研究内容をご紹介いただきました。蛍光が発光する様子を、動画を交えてご説明いただき、その有用性を視覚的にも理解することができました。医療分野の発展への寄与は勿論、今後も有機化学が世の中で役に立っていく可能性の1つを示していただくことができました。

午後は、川筋孝先生(塩野義製薬㈱創薬化学研究所、感染症化学部門長)によるご講演、「次世代HIV-Ⅰ インテグラーゼ阻害剤 ドルテグラビルの創薬研究」から講習会を再開しました。機能を発現する構造を明確化することで分子デザインを明確にされ、狙いを定めた上で様々な化合物を研究することで、目的とする機能を有する化合物群を狙い通り合成し、更にチューンナップすることでドルテグラビルの創製につなげられた研究内容を分かりやすくご説明いただきました。患者さんの使用時のことまで考えた開発という点でも、創薬の難しさと面白さを感じました。

4番目のご講演は、寺尾潤先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)による「クロスカップリング反応を機軸とした機能性超分子素子の創製」でした。微細化の進む半導体材料における有機ナノ分子材料として、非常に精密な分子の構造制御によって、高い機能を有する材料を創製された研究の流れをご説明いただきました。先生のバックグラウンドにあるクロスカップリング反応を随所に使い、様々なアイディアによって分子に機能を付与し、更には複数の機能性分子をリンクさせることで、世の中のニーズに沿った有機機能性超分子を作り上げていく様子をお伺いしていると、今後の有機材料の可能性が広がるのを感じることができました。

ブレイクを挟んでのご講演は、金井求先生(東京大学大学院薬学系研究科教授)による「低分子から生体高分子までを標的とした触媒反応開発」でした。安定有機ラジカルを用いて蛋白質残基を選択的に修飾する汎用性の高い反応開発と、特定のアミロイド構造が存在した時にのみ活性化される光触媒開発について、機構を含めて丁寧にご説明いただきました。生体内で使うことを指向した安全性や反応性を考慮した研究は緻密で、これからの触媒医療の開発が非常に楽しみに感じられる内容でした。

6番目のご講演は、東郷秀雄先生(千葉大学大学院理学研究科教授)による「ヨウ素の特性を活かした酸化的反応の開発」でした。ヨウ素の有用性の紹介から始まり、単体ヨウ素や超原子価ヨウ素を用いた、毒性が低く安全な手法によるニトリル化を徹底的に研究された内容をご紹介いただき、その熱意には圧倒されました。また一部の反応ではキロラボスケールでも実証実験を完了されており、資源不足の日本においては貴重な、世界的にも豊富な資源であるヨウ素を使いこなす強い意志を感じさせられました。

いずれのご講演も講習会ということで、まずバックグラウンドから詳細にご説明いただいたことで、専門外の内容でも分かりやすく理解することができました。また、研究時の様々なエピソードを盛り込んでお話いただき、興味深く拝聴することができました。予稿集の内容もボリュームたっぷりで、大変分かりやすいものとなっており、各講師の方々には大変感謝したく思います。

2017年度事業委員会委員
旭硝子:三宅徳顕、ダイセル:前田 幸嗣