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平成30年度 後期(秋季)有機合成化学講習会【開催報告】

日時
平成30年11月21日(水)~22日(木)【終了】
場所
(公社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール
東京都渋谷区渋谷2-12-15 / TEL.03-3406-3326(地図
主催
有機合成化学協会 / 共催:日本化学会、日本薬学会 / 協賛:日本農芸化学会
テーマ
「有機合成の底力 ―新手法・新材料・創薬― 」
会告ページ
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プログラム
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有機合成化学講習会は通常の学会やシンポジウムとは一線を画し、アカデミアの最先端でご活躍の先生は勿論のこと、産業界からも一流の講師をお招きし、最新の研究成果だけでなく、研究の背景や着想に至った経緯、研究を進める上での苦労話や失敗談、実際にその技術を使いこなす上でのコツなどを丁寧に解説いただける貴重な機会として、非常に特徴のあるものです。受講者の中心は企業の若手研究者で、事前にテキストを受け取り予習していただき、指定席でじっくりと学べる環境・スタイルをとっています。さらに内容習得をより深めるために、ご講師と参加者が直に質疑応答・討論も可能なミキサー&イブニングセッションを初日の講習終了後に設け、様々な企業からの参加者同士の情報交換や人脈形成の場としても非常に有意義な会として好評をいただいており、本講習会ならでは大きな魅力のひとつでもあります。
今回の講習会は、「有機合成の底力-新手法・新材料・創薬-」と題して、活用が期待される新反応や分析手法の開発、核酸医薬品開発や抗インフルエンザ薬開発、抗体薬物複合体(ADC)、工業的連続生産、新しいポリマー開発など、多岐に渡る領域でご活躍されておられる12名の先生方を産学からお招きしました。

開催報告

一日目

大嶋孝志先生{九州大学・院薬}による「保護基・活性化基に頼らない直接触媒反応」で講習会がスタート致しました。ご自身の天然物合成研究のご経験からタイトルにある研究を着想、その研究成果をご説明いただきました。徹底的な反応機構解析に基づいて従来の常識を覆す化学的選択性を達成されており、基本を大切にすることの重要性を改めて認識するに至りました。また、“研究者人生が終わるまでに、さらなる問題解決を達成したい”との信念をお話しされ、後進者に対して示唆に富むご発表となり時間切れになるほど活発な議論が交わされました。

企業講師の小林定之先生{東レ(株)}より「しなやかタフポリマーによるポリマー高性能化」の演題でご講義いただきました。“混ざらないモノを混ぜる”をキーワードに開発されたナノオーダーの共連続構造の効果を有機合成化学者にも理解しやすいようご説明いただきました。また、NEDOプロジェクトの一つであるポリロタキサン構造を活用した樹脂の靭性改善も解説いただきました。従来トーレードオフの関係にあった、“樹脂の高剛性と高靭性”を世界で初めて両立させることに成功した技術であって、非常に興味深いお話でした。

続いて、加藤宣之先生{三菱ガス化学(株)}より「高屈折率・超低複屈折ポリカーボネートの開発とレンズ展開事例」の演題で、構造物性相関の知見を活用した“臨機応変で速い”開発のご説明をいただきました。本知見を拡大して従来にない高屈折率と超低複屈折を両立可能なモノマー設計も達成されており、有機合成化学者の進むべき一つの道を示されたと感じられました。また、ホスゲン使用を回避された新ポリカーボネート製法のお話では全プロセスを通じて環境フレンドリーを目指しておられ、同社の新ACH法MMA製造プロセスを思い出す内容でした。

次に、河井真先生{塩野義製薬(株)}より「新規メカニズムを有する抗インフルエンザ薬の創製」の演題でお話いただきました。新型インフルエンザ、鳥インフルエンザを含む、より幅広いウイルスに対して効力を有する治療薬の創出を目的として開発されたBXMに関して、薬物標的の着想、初期の合成法、工業化に向けた合成法の開発を詳細に解説いただきました。また、本薬剤は臨床開始から3年半の短期間で承認されており、類を見ない薬効に加え、周到に設計・開発された製造プロセスの貢献も大きいとお話しされたことが印象的なご発表でした。

コーヒーブレイクを挟み、安河内宏昭先生{(株)カネカ}より「連続フロー反応による医薬品の革新的プロセスの開発-スケールアップから実用化まで-」の演題でお話しいただきました。“危険な化合物を安全に取り扱う”を達成するために採用された技術で、ホスゲン発生プロセスを皮切りにリアクターの改良やスケールアップの着眼、また触媒担持カラムの活用まで幅広く解説をいただきました。今後、普遍的に取り扱われる反応器の一形態として発展していくことが期待される内容でした。

初日の最終講義は、藤田誠先生{東京大学・院工}による「結晶スポンジ法:天然物化学、創薬研究への応用」でした。“X線構造解析の100年問題を解決した”とのコメントから講習がスタート。規則正しい分子配列(単結晶)が必須のX線構造解析を、MOF構造を利用した規則正しいホスト中に分析対象(ゲスト)を安定に配置させることによって非結晶性化合物であっても構造解析可能とした手法で、従来不可能であった多くの構造解析例を解説いただきました。“今後、世界の分析センターを目指す”との決意表明もあり、より簡便に本技術を適用可能な時代が来ると確信される内容でした。

1日目の講習会終了後、会場隣のロビーにてミキサー&イブニングセッションが行われました。2日目にご登壇される先生方も含めて講師の先生方にご参加いただき、多数の受講者も参加されておりました。軽くお酒を入れながらの和気藹々とした雰囲気で、先生方との講演内容に関するディスカッション、参加者同士の情報交換や人脈形成の時間として大いに盛り上がりました。

二日目

最初の講演は、和田猛先生(東京理科大薬)による、「核酸医薬への有機合成化学的アプローチ」でした。核酸医薬のリン原子の立体化学を厳密に制御した立体選択的合成と、核酸の二重らせん構造を厳密に認識して結合するカチオン性の人工オリゴ糖及びペプチドの合成のお話をいただきました。前半は合成の話から、物性・薬効まで説明を頂き、後者は核酸医薬の生体内安定性の向上やDDSへの応用が期待できる内容でした。

 

次の講演は、山東信介先生(東京大)より「核磁気共鳴を利用した高感度生体分子計測」という演題で、人工の細胞増殖因子の開発から、細胞内の分子を見る・NMRで検出する、という挑戦的な研究を紹介いただきました。NMRの核検出感度を劇的に向上させることができる核偏極法の基礎から、これを用いて実際に実験で観測する様子まで含め、非常に臨場感の溢れる講演でした。

 

午後一番は、藤吉好則先生(名古屋大)による、「クライオ電顕法の発展と創薬応用への可能性」の講演でした。クライオ電顕法の開発から、この手法を用いて膜タンパク質等の構造を解析した実例をお話いただきました。結晶化を必要とせずに、速い構造解析が可能となったことで、これまでになかった標的の構造解析からの創薬アプローチが期待されるということで、その一端を垣間見ることができました。

 

続いては、企業からの講師で、中田隆先生(第一三共(株))から、「バイオ医薬品への有機合成化学アプローチ-抗体薬物複合体Trastuzumab deruxtecanの創薬研究」という演題の講演がありました。抗体医薬、抗体薬物複合体(ADC)の基礎からの分かりやすい解説と、現在臨床開発中の抗HER2 ADC「trastuzumab deruxtecan(DS-8201a)」の創製のお話でした。低分子医薬とバイオ医薬の良い所を上手く活用できた例として、合成化学者もバイオ医薬に貢献できる例を示されました。

 

引き続き、吉田優先生(東京医科歯科大)により、「環状アルキンを用いる合成化学」という演題で、シクロオクチンやアラインの反応についてのお話をいただきました。化合物の反応性を理解することで、制御・利用していく様が非常にエレガントでした。簡単で様々な原料に適用可能な方法で分子を連結することで、複雑で多様な化合物を創出できる手法を開発する、というコンセプトは非常に強力なツールの一つになることが期待されました。

 

最後は、砂塚敏明先生(北里大)から、「日本発の大村天然化合物による微生物創薬」というご講演でした。大村創薬グループでの、ユニークなスクリーニングにより、微生物代謝産物から有用な生物活性物質を見出す研究から、様々な生物活性と特異な構造を有する天然物をシードとした創薬展開までエネルギッシュに紹介いただきました。日本の有機合成化学者がやること・できることはまだあるという力強いメッセージが印象的でした。

 

今回の講習会では、幅広いプログラム構成となり、講習会参加者にとって刺激的な内容になったのではと思います。各先生の講義の後も多くの質問があり、盛況のうちに2日間の講習が終了しました。

2018年度事業委員会委員
AGC:三宅徳顕、クラレ:福本隆司

講習会会場、展示、イブニング・セッションの様子