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平成30年度 前期(春季)有機合成化学講習会 開催報告

日時
平成30年6月13日(水)~14日(木)
場所
(公社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール
主催
有機合成化学協会(共催:日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会)
テーマ
「有機合成の新潮流 ― 反応剤・反応・創薬 新たな挑戦 ―」
会告ページ
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プログラム
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開催報告

有機合成化学講習会は通常の学会やシンポジウムとは一線を画し、アカデミアの最先端でご活躍の先生は勿論のこと、産業界からも一流の講師をお招きし、最新の研究成果だけでなく、研究の背景や着想に至った経緯、研究を進める上での苦労話や失敗談、実際にその技術を使いこなす上でのコツなどを丁寧に解説いただける貴重な機会として、非常に特徴のあるものです。受講者の中心は企業の若手研究者で、事前にテキストを受け取り予習していただき、指定席でじっくりと学べる環境・スタイルをとっています。さらに内容習得をより深めるために、ご講師と参加者が直に質疑応答・討論も可能なミキサー&イブニングセッションを初日の講習終了後に設け、様々な企業からの参加者同士の情報交換や人脈形成の場としても非常に有意義な会として好評をいただいており、本講習会ならでは大きな魅力のひとつでもあります。
今回の講習会は、「有機合成の新潮流-反応剤・反応・創薬 新たな挑戦-」と題して、活用が期待される新反応や新触媒の開発、不安定分子の化学、核酸医薬品開発や抗HIV薬開発、生体内合成化学、新規酸化剤の工業的製造やアルコール酸化反応、マイクロフローや工業的連続生産など、多岐に渡る領域でご活躍されておられる10名の先生方を産学からお招きしました。今回は学術界側講師に関しては、講習会参加者の世代にも近く、新進気鋭の若手の先生方を招聘し、企業側からは平成29年度有機合成化学協会賞「技術的なもの」受賞講演2件を含む4名の講師の先生にお越しいただきました。

第1日目

山口潤一郎先生(早大先進理工)による「日進月歩の芳香族化合物脱カルボニル型変換反応」で講習会がスタート致しました。日本最大級の化学ポータルサイト「Chem-Station」代表としても著名な先生ですが、これまでにカップリング反応の求電子剤として用いられていなかったエステル官能基を、新規に開発した触媒を用いることで脱カルボニル化を伴い反応させるという新規触媒反応群に関して、先生ご自身の研究成果だけでなく、歴史的な変遷や、フォロワーなど他研究グループの報告例に関しても詳細にご説明していただきました。先生のバイタリティーが垣間見える大変面白い講義でした。

続いて、山下誠先生(名大院工)より「高反応性ホウ素化合物の化学:不安定化学種取り扱い入門」の演題でご講義いただきました。「マニアック」な話ですとの言で始まりましたが、ホウ素原子含有化合物の特異な性質や反応性に関して、軌道相互作用や分光学的解析などにより基礎からご説明いただきました。また、基質や中間体が非常に不安定な化学種であることから、それら不安定化学種を如何にして取り扱うかに関して、器具・装置やテクニックなど、写真を交えつつ詳細にご教示いただきました。不安定化学種を取り扱っている参加者の方々にとっては、非常に興味深いお話であったと思われます。

次に企業側講師として、山本潤一郎先生(協和発酵キリン(株))より「核酸医薬開発へ向けた技術構築の挑戦」の演題でお話いただきました。低分子や抗体に次ぐ新たな医薬基盤として期待されている核酸(DNAやRNA)を医薬品として用いる利点や研究背景に始まり、親和性向上を志向した鎖末端設計や、膜透過性向上を志向した修飾基設計など、如何にして活性増強を促すかという戦略に関してご教示いただきました。いずれの戦略においても、低分子医薬の社内研究基盤を活用した有機合成的に合成する手法もご説明いただき、機能発現の検証や応用例に関してもご紹介いただきました。

コーヒーブレイクを挟み、「新規酸化剤『次亜塩素酸ナトリウム5水和物(SHC5)』の工業化と酸化反応への応用」の演題で岡田倫英先生(日本軽金属(株))より、平成29年度有機合成化学協会賞「技術的なもの」受賞講演をいただきました。市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の問題点(低濃度・低純度かつ低安定性)を解決すべく開発されたSHC5の工業化と、酸化反応への応用例として種々の有機合成反応をご紹介いただきました。従来の反応より収率と選択性に優れ、大量合成への展開時には取り扱い上の簡便さだけでなく廃棄物削減も可能とのことで、今後広く使用されることが期待されます。

初日の最終講義は、田中克典先生(理研)による「生きている動物内での創薬研究:生体内合成化学治療」でした。複数糖鎖によるパターン認識という戦略で、金属触媒を結合させた糖鎖クラスターを体内の狙った臓器へ運ぶデリバリーシステムとしての利用や、患部で過剰発現する毒性物質アクロレインに着目し、患部局所に存在するその物質を生体内でそのまま薬剤に変換する化学治療や迅速診断への応用と臨床研究など、壮大な目標を見据えた「生体内合成化学治療(現地合成)」という概念を、基礎から応用展開まで非常に幅広く詳細にご紹介いただき、これからの発展が非常に楽しみに感じられる内容でした。

1日目の講習会終了後、会場隣のロビーにてミキサー&イブニングセッションが行われました。2日目にご登壇される先生方も含めて講師の先生方にご参加いただき、多数の受講者も参加されておりました。軽くお酒を入れながらの和気藹々とした雰囲気で、先生方との講演内容に関するディスカッション、参加者同士の情報交換や人脈形成の時間として大いに盛り上がりました。

第2日目

2日目の最初は布施新一郎先生(東工大化学生命科学研究所)による「マイクロフローリアクターを用いる高速・高効率アシル化反応」の講義でした。マイクロフローリアクターを用いる反応の特徴、その原理といった基礎的なお話から、ペプチド医薬品の合成を指向したマイクロフローアミド化反応の開発、さらにその応用として抗菌活性天然物であるフェグリマイシンの全合成について紹介されました。特にラセミ化しやすいアミノ酸残基を含むペプチド合成において本反応の強みが発揮されることをご紹介いただきました。

続いて(株)高砂ケミカルの齊藤隆夫先生による「連続生産の社会実装への取り組み」の講義がありました。国内人口減少や多品種少量化といったビジネス環境変化による従来型生産モデル崩壊の危機を、連続生産の社会実装によって好機に替えるという大きなビジョン実現に向け、製造現場で実際に取り組まれている内容について、連続生産装置の様子を映した動画も交えてご紹介いただきました。反応だけでなくろ過等の前後の工程も含め、戦略的に「繋ぐ」ことで生産工程全体として大きなインパクトを与えるというお話はとても印象的でした。

ランチョンセミナーと休憩をはさみ、午後最初の講習は澁谷正俊先生(名大院薬)から、「アルコールを効率的かつ選択的に酸化するために」というタイトルで講義をいただきました。高活性アルコール酸化触媒であるAZADOおよびその誘導体を用いた様々な酸化反応の開発について、その着想過程や検討結果、考察などを分かりやすく解説していただいたのち、その応用例をご紹介いただきました。特に5-F-AZADOを用いたアルコールの空気酸化反応、AZADO類を用いた1,2-ジオールの酸化的開裂反応、いくつかの化学選択的酸化反応など本触媒の応用範囲がますます拡がっていることが実感できる内容でした。

続いて、平成29年度有機合成化学協会賞「技術的なもの」受賞講演として、安酸達郎先生(塩野義製薬)から、「HIV-1インテグラーゼ阻害剤ドルテグラビルの効率的合成法の開発」の講演を戴きました。探索研究段階での合成ルートから大量製造に適した新しい合成ルートを開発するにあたっての課題抽出、スケールアップ時のポイント、実際の検討内容、その結果やインパクトをリアルにご紹介いただきました。企業のプロセス研究者にとって大変勉強になる内容で、会場からも多くの質問が挙がりました。

講習会の最後は、永木愛一郎先生(京大院工)からの「フローマイクロリアクターを用いた超高速反応による精密合成」の講義でした。精密な温度制御、高速混合とその制御、精密な滞留時間制御というフローマイクロリアクターの特徴を活かすことで、有機合成の未開拓領域を開拓していくというお話でした。不安定な有機リチウムを用いた反応の制御やいくつかのアニオン重合等々、具体的な反応例を多くご紹介いただきましたので、参加者にとってたいへん興味深い内容だったと思います。

今回の講習会では、反応開発から中分子創薬、さらに工業生産を意識した内容など、幅広く最先端の研究の実際を聞くことができた一方で、フロー合成や酸化反応については同分野の話を異なる先生から聞くことができるという立体的なプログラム構成となり、講習会参加者にとって刺激的な内容になったのではと思います。各先生の講義の後は基礎的・理論的な内容から現場での実践における課題など、幅広い質問が多くあり、盛況のうちに2日間の講習が終了しました。

2018年度事業委員会委員
三井化学:田中陽一、日産化学:笹子滋正

ランチョンセミナー、展示、イブニング・セッションの様子