イベント - 協会本部 –
平成30年度 後期(秋季)有機合成化学講習会プログラム 終了しました
- 日時
- 日時:平成30年11月21日(水)~22日(木)
会場:日本薬学会長井記念館長井記念ホール
- 主催
- 主催 有機合成化学協会
共催 日本化学会、日本薬学会、日本農芸化学会
テーマ「有機合成の底力 ―新手法・新材料・創薬―」
第1日目【11月21日(水)】
開会挨拶 10:25~10:30 [事業委員長 林 亮司(東レ)]
※下記時間は質疑応答を含まない/敬称略
[座長:庄司 満(横浜薬大薬)]
1.「保護基・活性化基に頼らない直接触媒反応」(10:30~11:20)
(九州大学大学院薬学研究院教授)大嶋孝志
化学選択性は、官能基の本質的な反応性の差を利用して制御されるため、その選択性を逆転するためには、反応性の高い官能基の保護などが必要がある。一方、反応性の低い官能基を”触媒”によって選択的に活性化することができれば、官能基の保護・脱保護の工程などを用いない環境調和性の高い合成プロセスを構築できる。本講習では、我々が行ってきた、より反応性の低い官能基を選択的に活性化する”官能基標的触媒”の開発について、最近の研究を中心に紹介したい。
[座長:本間 晶江(中外製薬)]
2.「しなやかタフポリマーによるポリマー高性能化」(11:35~12:15)
(東レ(株)化成品研究所研究主幹)小林定之
東レでは、“ナノアロイ”技術を深化・発展させ、ナノオーダーで3次元連続構造形成を実現し、飛躍的な高性能化を実現する“ナノアロイ”技術の開発や、リアクティブプロセッシングと“ナノアロイ”技術を融合することで、通常はプラスチックとしての特性を示すが、急激に衝撃を加えた際にはまるでゴムのように変形し衝撃を吸収する革新的な材料の創出や、しなやかでタフなポリマー材料の開発に成功している。これらの技術と材料の特徴を紹介する。
*昼休憩(12:30~14:00)
[座長:大谷 鷹士(三菱ケミカル)]
3,「高屈折率・超低複屈折ポリカーボネートの開発とレンズ展開事例」(14:00~14:40)
(三菱ガス化学(株)本社 機能化学品カンパニー 企画開発部光学材料グループ主査)加藤宣之
スマートフォンなどに搭載される小型精密カメラレンズの材料としては、高屈折率・低複屈折材が不可欠である。本講習では、レンズ用途に適応し得る、高屈折率・低複屈折特殊ポリカーボネート樹脂について、分子設計からその構造を明らかにしつつ、主要光学特性の屈折率・アッベ数と複屈折に焦点を当てて解説する。また、レンズにおける特性評価についても述べ、一例を紹介する。
[座長:松嶋 雄司(アステラス製薬)]
4.「新規メカニズムを有する抗インフルエンザ薬の創製」(14:55~15:35)
(塩野義製薬(株)創薬化学研究所感染症化学部門感染症化学2グループ長)河井 真
Baloxavir Marboxilは、既存薬と比べて抗ウイルス効果が極めて高く、単回経口の服用で治療が完結する抗インフルエンザ薬である。Baloxavir Marboxilは2つの不斉中心を持つ極めて特徴的な化学構造を有し、その合成においてもいくつかの重要なブレークスルーを経て導かれた。この不斉合成は極めて困難と予想されたが、“分別結晶によるジアステレオ分割”と“反応系中からの異性化晶析”により立体化学を完全に制御し、良好な化学収率で光学的に単一な化合物を得ることに成功した。本講習では、Baloxavir Marboxilに至ったSAR並びにその合成研究について紹介する。
**ブレイク20分**15:50~16:10
[座長:千葉 博之(エーザイ)]
5.「連続フロー反応による医薬品の革新的プロセスの開発―スケールアップから実用化まで―」(16:10~16:50)
((株)カネカ Pharma & Supplemental Nutrition Solutions Vehicle Pharma統括部研究企画チーム主任)
安河内宏昭
フロー反応は、安全性や生産性の向上、高いスケーラビリティー等、従来のバッチ反応方式と比べて多くのアドバンテージを有している。今回、我々はフロー反応の優位性を活かし、コイル型リアクターを用いた危険反応、及びPacked Bed リアクターによる触媒反応を用いた効率的な医薬品合成プロセスを確立したので、その取り組みの一端を述べる。また、本公演では、導入したフローリアクター設備と当該設備を用いたGMP生産結果についても併せて紹介したい。
[座長:事業委員会副委員長:柳澤 章(千葉大院理)]
6.「結晶スポンジ法:天然物化学、創薬研究への応用」(17:05~17:55)
(東京大学大学院工学系研究科教授) 藤田 誠
我々が開発した結晶化を必要としないX線構造解析手法(結晶スポンジ法;以下CS法)の最近の進展を学術と社会実装の2つの観点から紹介する。CS法による容易な絶対配置決定は、不斉合成研究のボトルネックを解消した。天然抽出混合物からの天然物の直接絶対構造決定は、従来の天然物単離構造決定のワークフローを一新した。JST-ACCELの強力な後押しがあり、産業界活用の機運が生まれ、さらにはCS法発展研究の場となる社会連携講座の設立や、文科省ナノプラットへの技術移転までが実現した。着想からわずか5年、CS法は着実に「後生に残る技術」として成長を遂げている。
[司会進行:草間 博之(学習院大院理)]
★★イブニングセッション(於;ロビー)★★(18:10~19:45)
第2日目【11月22日(木)】
[座長:三宅 徳顕(AGC)]
7.「核酸医薬への有機合成化学的アプローチ」(9:30~10:20)
(東京理科大学薬学部教授)和田 猛
核酸医薬の実用化において解決すべき課題は、核酸分子の生体内における安定性の向上とデリバリー技術の確立である。本講習では、リン原子の立体化学を厳密に制御した核酸医薬の立体選択的合成とその性質、薬理活性について紹介する。一方我々は、核酸の二重らせん構造を厳密に認識して結合するカチオン性人工オリゴ糖とカチオン性人工ペプチドの合成に成功した。これらの分子は核酸医薬の生体内における安定化とDDSに応用することが期待される。本講演ではこれらの新規RNA結合性分子の合成と性質についても報告する。
[座長:戸田 成洋(第一三共)]
8.「核磁気共鳴を利用した高感度生体分子計測」(10:35~11:25)
(東京大学大学院工学系研究科教授)山東信介
核磁気共鳴法(NMR)は、分子の構造を決定できる極めて重要な計測手法である。一方、検出感度が低い点は大きな問題であった。核偏極法は、磁場中でゼーマン分裂した核スピンの占有数差を人為的に偏らせる技術であり、NMRの核検出感度を劇的に向上させることができる。例えば、動的核偏極法を用いれば理論上、13C核の検出感度を数万倍以上も上昇させることができる。NMRの問題点である「低感度」を克服できる可能性を持つ次世代技術である。本講習では、核偏極NMRの仕組みを説明するとともに、生体分子計測への応用について紹介する。
**昼休憩(11:40~12:50)
[座長:杉木 正之(味の素)]
9. 「クライオ電顕法の発展と創薬応用への可能性」(12:50~13:40)
(名古屋大学細胞生理学研究センター客員教授)藤吉好則
電子線結晶学を用いて、創薬標的として重要な膜タンパク質の構造解析を進めてきたが、近年単粒子解析法が目覚ましい発展を遂げているので、このクライオ電顕法を用いてギャップ結合チャネルをはじめとする膜タンパク質の構造を解析している。単粒子解析法は結晶化を必要としないので、構造解析が速くなり構造研究分野が飛躍的に発展した。速い構造解析は、これまで期待されながら活用が困難であった構造創薬の可能性を高めている。それゆえ、Drug Rescuingと呼ぶ新しい創薬戦略などについて紹介する。
[座長:犀川 陽子(慶大理工)]
10.「バイオ医薬品への有機合成化学アプローチ-抗体薬物複合体Trastuzumab deruxtecanの創薬研究」(13:55~14:35)
(第一三共(株) バイオ・癌免疫ラボラトリー第五グループ主任研究員)中田 隆
抗体薬物複合体(ADC)とは、強力な薬効を持つ低分子医薬品と標的特異性の高い抗体を適切なリンカーを介して結合した次世代バイオ医薬品である。副作用を減弱しながら薬効を高めることが期待され、がん領域を中心として多くの臨床開発がおこなわれている。現在、臨床開発中の抗HER2 ADC「trastuzumab deruxtecan(DS-8201a)」の創製を題材としてバイオ医薬品への有機合成化学アプローチについて紹介する。
**ブレイク20分**14:50~15:10
[座長:田中 陽一(三井化学)]
11.「環状アルキンを用いる合成化学」(15:10~16:00)
(東京医科歯科大学生体材料工学研究所准教授)吉田 優
アルキンは、通常、直線構造の安定な分子である一方で、環状アルキンは歪んだ構造に由来する高い反応性を示す。古くは、シクロオクチン等の環状アルキンや、ベンゼン環の一部が三重結合となったアラインなどに関して、構造や反応性が注目されてきた。これに対して、最近になって、環状アルキン類が有機合成における有用なツールとして役立つことが明らかにされてきた。本講習では、シクロオクチンやアラインなどの反応性を理解し、制御して利用する、最近の我々の研究成果も含め、有機合成に役立つ環状アルキン類の化学について紹介する。
[座長:今枝 泰宏(武田薬品工業)]
12.「日本発の大村天然化合物による微生物創薬」(16:15~17:05)
(北里大学北里生命科学研教授)砂塚敏明
微生物創薬は、日本のお家芸でありこれまで多くの有用な薬剤を創出してきた。
大村創薬グループでは、ユニークなスクリーニングを駆使して微生物代謝産物より有用な生物活性物質を見出す研究を行っており、世界で最も使われている抗寄生虫薬エバーメクチンをはじめスタウロスポリン、ラクタシスチン等、様々な興味ある生物活性と特異な構造を有する天然物を500以上見つけている。この大村天然物は、多種多様のシード化合物としてまたバイオプローブとして、創薬への展開の可能性を有している。本講習では最新の成果を紹介する。
閉会挨拶 17:20