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2019年度 前期(春季)有機合成化学講習会【開催報告】  終了しました

日時
2019年6月18日(火)~19日(水)【終了】
場所
(公社)日本薬学会長井記念館長井記念ホール
東京都渋谷区渋谷2-12-15 / TEL.03-3406-3326(地図
主催
有機合成化学協会 / 共催:日本化学会、日本薬学会 / 協賛:日本農芸化学会

テーマ:「新時代に飛躍する有機合成化学―機能性分子、材料から創薬まで―」

有機合成化学講習会は、通常の学会やシンポジウムとは一線を画し、アカデミアの最先端でご活躍中の先生に加え、産業界で医薬品や高機能材料の開発に携わっている研究者を講師としてお招きしています。講習会では、最新の研究成果に到るまでの研究背景や着想に至った経緯、研究を進める上での苦労や失敗談、実際にその技術を使いこなす上でのコツなどを丁寧に解説いただいており、通常の学会では聞くことのできない貴重な情報を得られる機会として、受講者から毎回好評をいただいております。非常に特徴のあるものです。受講者の中心は企業の若手研究者で、事前に郵送されたテキストで予習していただき、ゆったりとした指定席でじっくり学ぶことができます。講演後に設けられる15分間の質疑応答時間では足りないことが多く、コーヒーブレイクと1日目の講習終了後に行われるイブニングセッションでは、講師と受講者のさらなる議論が展開されます。また、イブニングセッションには2日目の講師も参加するため、翌日の受講前に講師に質問することも可能です。さらに、参加者同士の情報交換や人脈形成の場としてもご活用いただいており、本講習会の大きな魅力の1つになっています。今回の講習会は、「新時代に飛躍する有機合成化学-機能性分子、材料から創薬まで-」と題し、高機能分子の自動探索、セルロースナノファイバーの開発、核酸医薬など、産学のさまざまな領域でご活躍される10名の方を講師としてお招きしました。

開催報告

1日目

石原司先生(産総研)による「高機能分子の自動探索〜自動設計と自動合成の融合による機能性分子発明の自動化へ〜」で講習会が始まりました。製薬企業での創薬研究の経験を元に、「構造活性相関解析→分子設計→合成経路設定」を行う自動設計装置と、多検体対応フローリアクター型の自動合成装置をご説明いただきました。今後、製薬・化学業界に急速に普及すると考えられる機械学習や深層学習について、受講者から多くの質問が寄せられ、今後の研究者のあり方についても議論されました。

続いて、寺内太朗先生(エーザイ(株))から「睡眠障害治療薬を志向したオレキシン 1/2 受容体新規デュアルアンタゴニスト Lemborexant (E2006) の創製」についてご講演いただきました。睡眠と覚醒を制御する神経ペプチドであるオレキシン 1/2 に着目し、シード化合物の誘導体合成と活性評価による、精密な構造最適化の実例を詳細に解説いただいた、創薬研究者にとって非常に興味深いお話でした。

 

コーヒーブレイクを挟み、大西敦先生((株)ダイセル)に「知っている人は知っている多糖誘導体系キラルカラムの意外な能力〜アキラル異性体分離例と計算科学による認識機構の解明〜」と題し、ご講演いただきました。キラルカラム開発の背景と歴史に加え、キラル純度分析で汎用されるキラルカラムでアキラル化合物を分離するという、キラルカラムの意外な性能についてご紹介いただき、計算科学を用いた分子認識機構の解説により、受講者の理解が深まりました。

河崎雅行先生(日本製紙(株))からは、「セルロースナノファイバー開発の取り組み状況」についてお話しいただきました。地球上に膨大に存在する木質バイオマスから、新たなセルロース素材であるセルロースナノファイバーを製造・開発するための化学変換や種々の工程について解説していただきました。さらに、機能性添加剤としてのセルロースナノファイバーの利用法についてもお話しいただき、その性質や反応性について、受講者との深い議論が行われました。

初日の最終講義は、中谷和彦先生(大阪大学・産研)による「核酸標的低分子創薬を支えるゲノム化学」でした。核酸の異常な繰り返し構造が引き起こすさまざまな疾患と、そのメカニズムについて詳しくお話しいただきました。また、世界初のミスマッチ塩基対認識分子の創出と、類縁体の構造活性相関研究による結合様式の解明など、非常に興味深いご講演をいただき、日本が遅れている核酸医薬分野について、受講者からさまざまな質問が寄せられました。

1日目の講習会終了後、会場隣のロビーにてイブニングセッションが行われました。2日目にご講演される講師の先生方にもご参加いただき、参加者一同、和気藹々とした雰囲気で過ごしていました。軽くお酒が入っていたせいもあり、講演者と受講者との講演内容に関する活発な質疑応答が行われていました。また、参加者同士の情報交換や人脈形成の時間として大いにご活用いただくことができました。

二日目

2日目の講演は、生長幸之助先生(東大大学院・薬学系研究科)による「有機ラジカルを用いるタンパク質修飾法の開発と応用」で始まりました。非天然アミノ酸をさくさくつくろう、という想いから、Ser選択的なペプチド鎖切断法の開発、その適用制限から発想されたketo-ABNOによるTrp修飾、その反応に適したサイクリックボルタンメトリーの応用と、研究成果のみでなく研究の流れを理解することができる講演でした。また、Trp修飾の技術を抗体に適応した例では、本手法の実用性が分かる素晴らしい成果をご紹介いただきました。

続いて、生越友樹先生(京大大学院・工学研究科)から「柱型環状ホスト分子ピラー[n]アレーンの創成と空間材料化学への展開」の表題でご講演いただきました。ピラー[n]アレーンの構造的特徴、反応性を利用したトポロジー・機能性分子の合成、分子空間材料としてのシート形成について発表いただきました。ピラー[5,6]アレーンを得る際の溶媒選択の重要性や、包接する化合物や物性を側鎖のデザインによりコントロールすることなど、新規物質の創成の難度や面白さを感じることができました。また、斥力とのバランスによる5角形分子の規則正しい配列など、Visual的にも非常に印象的なご講演でした。

ランチョンセミナーでは、ロックウッドリチウムジャパン㈱と㈱野村事務所から、試薬類のご紹介をいただきました。両社とも展示ブースへの出展もあり、ラボから製造まで使える試薬の有用な情報を紹介いただきました。

ランチョンセミナーの後は、平井剛先生(九大大学院・薬学研究院)に「有機合成で新しいケミカルバイオロジ―ツールを創る」という表題で、複合糖鎖の合成・活用に関するご講演をいただきました。ガングリオシドGM3の機能解明のため、代謝を受けないアナログの合成に関しては、その合成に>50工程、10年かかった成果であることに感銘を受けた方も多かったのではないでしょうか。また、C-グリコシド結合へのラジカル反応の適応、光反応性官能基の導入についても最新の研究結果を発表いただき、糖鎖化学の発展を身近に感じることのできるご講演でした。

続く講師の大森健先生(東工大・理学院)は、本講習会の企画運営に携わる事業委員としても尽力いただいています。今回は「稠密に官能基化された天然有機化合物の合成研究:複雑な分子を読み解く」という演題で、フラバンオリゴマー、カルタミン、カビクラリンの合成を通し、息つく間もなく稠密に設計された合成についてご講演いただきました。ハード・ソフトの使い分けによるオリゴマー合成や、脱芳香化と非対称化の工程分離などを含む合成戦略、また、反応選択性をコントロールするための保護基・置換基の選択などにおいては「なぜそうしたのか」までを丁寧にご説明いただきました。深い有機合成の知識を基盤に合成戦略が練られる一方で、予想外の結果がブレークスルーとなったことなどもふくめ、合成の面白さが伝わるご講演でした。要旨集の問い1~5、参加された皆様はいくつ正解を導けたでしょうか。

最後は、小比賀聡先生(阪大大学院・薬学研究科)による「核酸医薬開発に向けた機能性人工ヌクレオシドの創製」のご講演でした。1日目の中谷先生のアプローチとは異なり、核酸(アンチセンス)そのものの分子設計と合成についてご講演いただきました。DNA結合能向上と代謝安定性を狙った架橋アミダイトについて、2’4’-BNA/LNAのデザインと合成、及び発展系のAmNA, GuNA, SeLNA、またそれらアミダイトの導入による効果の検証までをご紹介いただきました。発展型架橋分子の思いもよらない毒性回避効果など、まだ未知な部分があるものの、有機合成で核酸医薬の発展に貢献できることを実感できる内容でした。

有機合成化学講習会は、主に企業の化学者が普段の仕事とは異なる分野から普段と異なる発想を得たり、産学のコミュニケーションを促進したいという想いで開催しています。今回もその趣旨を汲んで10名の講師、この講習会を企画した事業委員会の委員をあわせて約90名を超える受講者に参加いただきました。講師の先生方には、様々な分野の参加者にも理解しやすい発表をしていただき大変感謝しています。参加者の皆様も、忙しい時間を割いてご参加いただきありがとうございました。

2019年度事業委員会委員
横浜薬科大学:庄司 満、中外製薬:本間 晶江

講習会会場、展示の様子